小泉放談

小泉放談 (宝島社文庫)

小泉今日子さんが、50代以降をどう生きるか?のヒントをもらうために25人の先輩と話す、という本。
すごく面白かったです。

ここは樹木希林さんとのやりとりです。

P104
樹木 ・・・そうねぇ、これは70を過ぎてからつくづくわかったんだけど、私って、芸能界が好きなのよね、基本的に。だって、この世界って、やっぱりおもしろいのよ。嫌な部分を含めても、おもしろい人たちが綺羅星のごとくいて。

小泉 それは、確かに。

樹木 対して、芸事はぜんぜん好きじゃない。もともと行き場所がなくて、仕方なく劇団の試験を受けたようなものだったし、いろんな思惑が現場に渦巻いているのも、ずっと嫌だったから、いつも足を洗いたい、いつやめてもいいと思ってたんだけど、70も過ぎてばーさんに何言ってもしょうがないという状況になった時、あらためて「なかなかおもしろい世界にいるんじゃないか?」って。何だ、実は私がいちばん合ってたんじゃん!とね。でも、50の時からそう思ってたら、たぶん私、もっと嫌なやつになっていたと思う。

小泉 うーん。

樹木 それから、60歳になってがんという病を持ったことで、世間の見方が変わったことね。「この人、どうせ死ぬんだから」という思われ方が、分銅の釣り合いとして、ちょうどいいわけ。

小泉 分銅、ですか?

樹木 うん。負の部分と、それを凌駕するだけの偉そうな部分が、ちょうどいいバランスになっていて……。それともうひとり、あのおじいさんがいる、っていうことがね。

小泉 もしかしてそれは、(内田)裕也さんのことですか(笑)。

樹木 そうよ!あの人が問題を起こせば起こすほど、私の株が上がるのよ。

小泉 アハハハ!

樹木 ・・・お金のこと、女のこと、一事が万事「ロックンロール!」で、社会的な日常生活のことは一切わかんない。でも、俺はちゃんと役割を果たしてるんだと。もちろん、この関係を切るということもできたのかもしれないけど、やっぱりそこは、出会っちゃったわけだから……。それを引き受けることで見えてくることが、きっと私にもあったんだわね。・・・まあ、ここまで究極的なことはなくても、皆、50なら50まで生きてきた中に、理不尽なことはたくさんあるはずよね。ただ、それをちょっと俯瞰で見てみると、自分だけが不幸せだということはないわけで、誰の人生にも必ずマイナスの部分がある。だけどそれは、ひっくり返せばプラスになるもの。つまりはそれを、自分の成長、成熟のための材料にどう使うか……。幸福も不幸も、全部が表裏一体だということをわかっちゃえば、これはもう、おもしろいのよ。