コミュニティスペースとして

しょぼい喫茶店の本

 当初SNSで有名になり、お客さんがたくさん来てくれるようになって、そのまま行くかと思いきや、いろいろうまくいかなくなり・・・喫茶店はやがてこんな形になっていったそうです。

 

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 常連さんが「自分の家にいてもつまらないなあと思うと、友達の家に遊びに行く感じでしょぼい喫茶店に来ている」と言ってくれたことがある。この言葉を聞いて、「そういうことなんだ、それでいいんだ」と思った。

 僕はそれまで、この喫茶店を店としてどう大きくしていくかばかりを考えて、何か画期的なアイディアはないものかと模索を続けていた。でも、しょぼい喫茶店はそうじゃないんだと思った。店というのは、空間があって商品があって、それを売るためのアイディアとそれに惹かれたお客さんで成り立っているんだと思っていたけれど、しょぼい喫茶店は人で成り立っているんだということに気づいた。ここに足繫く通ってくれている常連さんたちは、美味しいご飯が食べたいわけでも、美味しいコーヒーが飲みたいわけでもなく、僕とおりんさんが作っているこの空間が好きなんだ。それに気づくと、やるべきことは斬新なアイディアやシステムの構築なんかじゃなく、とにかく人柄のいい人、機嫌のいい人であり続けること、そして、このコミュニティの責任者として空間を管理し、守り続けることが僕とおりんさんの仕事なんだと思った。

 視界が少しずつ拓けていく感じがした。いわゆる店ではなく、コミュニティという意識をもつと、それまでひとりで悩んでいたお店のことについて、お客さんとよく話すようになった。・・・

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 店員とお客さんの境界が曖昧になって、どんどんお店が開かれた場所になっていっていた。・・・

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 結局、僕は「当てる」ことも「攻略する」こともできていない。

 いろんな試行錯誤をしてみてわかったことがある。「魔法はない」ということだ。・・・この喫茶店で一発逆転はできない。それはわかっている。わかっているけれど、それでも僕とおりんさんは、いつか魔法が起こるんじゃないかと本気で信じている。そう信じてサイコロを振り続けること。魔法が起こるまで、地道で泥臭くて、お世辞にもシンデレラストーリーとは言えない日々を、毎日毎日繰り返すこと。それが優秀な経営者じゃない僕とおりんさんにできることなんだと思う。

 

 この本は、このような文章で終わっていましたが、心身共に疲れてしまい、今年の2月末で閉店することにしたそうです。閉店にあたってもずいぶん悩まれたそうで

(閉店することを)なかなかツイートすることができずに、グダグダと先延ばしになってしまった。最後の最後までこれかよと自分でも思う。本当なら最後の数週間は店を開けておかなければとか、最終営業日を設けないといけないとか思っていたのだけど、そういうことを『やりたい』という気持ちになれなかった。足繁く通ってくださった方々に対して、本当に不誠実な態度だと思う。申し訳ありません」

と、ネットにメッセージがありました。

 これを読んでなおさら『やりたい』という気持ちになれるかどうか、ほんとに『やりたい』と思えることにしか体が動かないというのは、これからの時代の生き方かなと思いました。

 こちらに、本にも書いてある開店までの経緯などが詳しく載っていました↓

https://www.hotpepper.jp/mesitsu/entry/jitsu-asayama/19-00135