相手を知ること

武器としての交渉思考 (星海社 e-SHINSHO)

 なるほど、改めて整理して頭に置いておこうと思いました。

 

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 ・・・本書では、「すごく合理的に物事を判断する人を相手とする交渉」と、「まったく合理的でない人を相手とする交渉」の2つに分けて考えていきたいと思います。

 なぜ相手を分けて考える必要があるかというと、交渉では意思決定権を持つ相手と自分とが合意することが必要不可欠なので、相手がどういう考え方をするか知らないと、そもそも交渉が成り立たないからです。

 相手が自分とはまったく違う結論に達することもよくあります。その際に大切なのは、「相手がなぜそのような結論に達したのか」ということをよく理解することです。

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 相手がどんな思考パターンを持っているのかを知らなければ、暗闇に向かって矢を射るのと同じで、どこを狙えばいいのか皆目わかりません。合意を結べる可能性は、きわめて低くなってしまうでしょう。

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 交渉のベースとなる基礎理論は、経済学のオーソドックスな考え方に影響を受けており、「自己の利益を最大化しようとする合理的な個人」同士の交渉を考えています。

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 ・・・要は、コンピュータのように、計算どおりに動く人々を想定しているわけです・・・

 しかし、現実の世界の人間は、ロボットみたいに正確にものごとを考えることもできなければ、きわめて感情的で、非合理にふるまうこともよくある存在です。

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 ・・・だから、交渉を学ぶうえでも、その両方の側面にきちんと目配りしておかねばならないわけです。

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 交渉というと、みなさんはどんなイメージを持っているでしょうか?

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「いかに自分の立場を相手に理解してもらうかが大事」

「自分の主張をなるべくたくさん言ったほうが勝てる」

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 というような印象を、なんとなく抱いているのではないかと思います。

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 しかしそういった印象は、かなりの部分で間違っていると言っていいでしょう。

 実際の交渉は、もっとずっと深いコミュニケーションであり、相互理解が求められ、またクリエイティブなものです。

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 相手に交渉のテーブルについてもらうためには、「自分の立場を理解してもらう」ことより、「相手の立場を理解すること」のほうが大切です。

 つまり、「僕が可哀想だからどうにかして!」ではなく、「あなたがこうすると得しますよね」という提案をするべきなのです。

 相手側の立場、利害関係を考えて、相手にメリットのあることを提示すること。

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 さてつぎに、有名な交渉の問題である「オレンジをめぐる交渉」について考えてみましょう。

 練習問題

 2人の姉妹が、ひとつのオレンジをめぐって口喧嘩しています。

「半分に分けたら?」と親が言いましたが、2人とも「ひとつ分が必要なの!」と言って譲りません。

 しかし数分後、話し合いの結果、姉妹で無事に分け合うことができました。

 いったい何が起きたのでしょう?

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 では、答えを言いましょう。

「オレンジの皮と中身を分け合った」

 これが正解です。

 ・・・要するに「2人が求めていたものが違っていた」ということなんですね。

 姉はふつうにオレンジを食べたかったのですが、妹は中身が食べたかったのではなく、オレンジの皮でマーマレードを作りたかったのです。

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 つまり「利害関係が一見、完全にぶつかっているように見える問題でも、相手と自分、双方の利害をよく分析してみると、うまく両者のニーズを満たす答えが出てくることがある」ということを、この問題は示しているのです。

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「相手が欲しがっているものはなんなのか?」「相手が妥協してもいいと思っているものはなんなのか?」―それらを正確に見極めて、分析することが大切です。

 つまり、「どれだけ相手の主張を聞けるか」の勝負となるのです。