これ以上できないところまで

蒼い炎II-飛翔編-

 ソチオリンピック前の心境が書かれていたところ。こんなふうに自分の心が眺められるのってすごいなぁと思いました。

 

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「五輪とは、なんだろう。五輪は、僕にとってたしかに一つの試合です。ただ、僕の心の中に二人の自分がいるんです。迷っているのではなくて、完全に分断されている二人なんですけど。

 一人は、夢の舞台だからすごく楽しみたいと思っている。五輪に向けて精いっぱいやっていきたいって。五輪に向けてだけじゃないな、この一年間ずっと一生懸命やっていきたい、という思いの人が一人。それとは別にもう一人、すごく冷静で不安な人がいるんですよ。ちょっと不安で、五輪を他の試合と同じ一つの試合として考えなくちゃいけないと思っている。五輪シーズンであっても、このシーズンはいつもと同じ一つのシーズンだから、世界選手権や四大陸と同じように考えたいという自分がいます。

 それが今現在の心境ですけど、その二つを混ぜようとは思わないんですよ。どっちかを消そうとも思わないし、混ぜようとも思わない。それはそれでいいや、どちらか片方が出る時もあるし、その反対が出る時もあるし、それでバランス取れてるんだし、いいやって。だから五輪は、一つ一つ全力でやっていって最終的に悔いのないようにという気持ちとともに、一つの試合として考えていきたいな、というのが今の思いかな。

 五輪は4年に一回しかないので、競技人生で数回しかないと思うと、やっぱり不安になってしまう時もあるんです。だけど先ほどお話した、日々の練習や生活、その前の試合も全力でやれていたら、もう五輪でどうなってもいいかなって。そこまで事前にしっかりやっていたら、たとえ五輪でよくない演技が出てしまったとしても、そこまで頑張ってきたと思えるんだと思う。

 そうすればその次の五輪をめざす時に、『ここまで頑張ってきたけれど、(平昌五輪までには)もうちょっと頑張っていこう』とか、『もうちょっと気をつけなきゃいけないな』と絶対思えるんですよ、全力でやっていれば。五輪が一つの終わりと考えるのもありつつ、五輪が終わったところでその次の五輪に向けてまた頑張ろうと思える、糧みたいな、灯みたいなものを、ちょっとでも手にすることができたらいいなと思います」

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「・・・『自分が持っている力を納得できる形で出したい』とか、『自分の力を存分に発揮して』とか、いろいろなところでよく聞きますけど、僕は発揮できなくてもいいんです。自分の中で、頑張ったな、もうこれ以上できないな、と思うくらいまで極限に自分の身体を追い詰めていけていたらいい。心から真剣になれていたらそれでいいなと、五輪に関しては思っています。

 世界選手権は、怪我してショートがだめで、フリーがよくて、というパターンが多いので(苦笑)、とりあえず怪我だけはしたくないですね。シーズン半ばの自分に、『怪我してないでしょうね?』『大丈夫だよね?』って言いたいです」

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「僕は、自分の可能性を追い求めています。自分の演技で時代が変わっていくかもしれないということは考えますし、実際そうなっている部分はあると思います。だけど僕たちはただ勝ちたいし、自分の可能性を求めてどんどん突き詰めて練習していくことで、こうやって跳ぶことができていると思います。僕なんかはハビエルみたいに4回転をぽんと跳べるわけじゃないんです。ハビエルは最先端で、僕はこういうスケーターになりたいと思って近くで見ている。謙遜ではなくて、本当にこの人をめざしてクリケット・クラブに入ったわけだし。ハビエルの4回転がすごく好きだったから」