感謝

周防正行のバレエ入門

 あとがきの文章を読んで、ほんとうにそうだなぁと思いました。

 

P241

 結婚して、最初の舞台が『白鳥の湖』だった。

 ・・・

 振り返ってみれば、本当にさまざまなバレエシーンが思い出される。

 ・・・

 牧阿佐美バレエ団で踊ったローラン・プティの『若者と死』。終演後のパーティーで「今まで踊った誰よりも民代は素晴らしかった。ジジを除いてね」と笑ったプティ。

 マイヤ・プリセツカヤに見守られながら踊った『カルメン組曲』。「闘う白鳥」その人に直接指導された草刈の喜び。

 ・・・

 草刈自らがプロデュースした『ソワレ ・・・』のパリ公演。プティの歓喜、そして「トライアンフ(勝利)ね」と草刈に微笑みかけたジジ・ジャンメール。草刈のバレエに対する真摯な思い、自分の可能性にかける勇気とひたむきさが形となり、講演を成功させたことが何よりも嬉しかった。

 ・・・

 クラシックとしては最後の演目となった『ジゼル』。これが本当に最後なのかと思うと、残念でならなかった。それほどに素晴らしい『ジゼル』だった。

 そして引退公演『Esprit~エスプリ~ローラン・プティの世界』。最後の舞台なのに、感傷にひたることなく、自分の目指してきた「バレエ」を見せるべく、プティの演目を自らのキャスティングも含めて、あくまでも未来に向かってプロデュースし、公演の新しい形を提示して成功させた。後ろを振り返ることのない草刈らしい舞台だったと思う。

 そして、その引退公演の直後に撮影した『ダンシング・チャップリン』。「空中のバリエーション」を編集し終えたとき、本当に美しい、と心の底から思えた幸せ……。

 草刈とは違って、振り返ってばかりいる僕だが、ちょっと思い出してみただけでも、たくさんのバレエがよみがえってくる。そして、その草刈のバレエ人生を考えるとき、本当にたくさんの人に感謝をしなければならないと思った。

 この場を借りて、両親、姉妹を初めとして、草刈を支えてくださったすべての人、応援してくれた観客のみなさんに、草刈ともども心より感謝いたします。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

 そこで思うのだが、その「感謝」は草刈に限ったものではないはずだ。余計なお世話だし、おこがましくもあるので、押しつけるつもりはないが、僕もあなたも、世界中の人々も、それぞれが本当にたくさんの人によって支えられ、成長してゆくものなのだ。まさにそのことを、僕は草刈のバレエ人生を振り返ることで、改めて実感したのである。

 お互いを支え合い、教え、教えられ成長する「人間の営み」に、心より感謝せずにはいられない。・・・