ヒデキマツイ

ヒデキマツイ

12年前に出た本、「ヒデキマツイ」を図書館で見つけて、最初のページの、松井さんが語るこの本の紹介を読んで、読みたくなりました。
ヤンキースで大活躍してた頃の松井さんがどんなことを考えてたのか、興味深かったです。

P1
 甲子園の5打席連続敬遠からは十三年。「松井秀喜」の野球人生に関する記事や本は数多くありますが、ここまで僕の心の内側に迫った本は初めてかもしれません。
 二〇〇三年一月、ヤンキース入団会見の時の晴れがましさは今も忘れません。日米三百人の報道陣から最初に出た質問は「ニックネームは何がいいですか」というものでした。僕は「ゴジラがいいですね」と答えました。実はその質問者が、この本の著者、朝田武蔵さんだと知ったのは、だいぶ後になってからです。あれが二人の「出会い」です。
 以来、この三年間、彼の質問は毛色の変わったものばかりでした。
「お父さんの宗教は、あなたにどんな影響を与えたんですか」
「5打席連続敬遠の後、本当はどこかで泣いたでしょう」
「メジャー入りは昨晩一人で決めたという東京会見の言葉はウソじゃありませんか」
「今、幸せですか」
『ヒデキマツイ』という本を読んでみると、ずいぶん本当のことをしゃべっちゃったなあ、というのが実感です。その時、その時は、意識していませんでしたが、ある意味、「この人なら、いままで誰にも話せなかったことを言っても大丈夫」という安心感があったのかもしれません。
 武蔵さんは日経新聞のニューヨーク特派員ですが、野球に関しては素人です。「打ち損じって何?」「バットはなぜ折れるのか」「カーブとカットボールの違いを教えて欲しい」「ボークって何?」。はっきりいって、もう少し勉強してきたら、と思う質問もありましたが、あまりに素朴な疑問なので、彼が「わかりました」というまで、いつも丁寧に説明したつもりです。だからといっては変ですが、野球に詳しくないファンの方も、この本を読めば、松井秀喜の野球理論が今まで以上に理解できるかもしれません。
 今年は苦しい闘いが続きました。プレーオフに敗れた後、武蔵さんと二人で会った時のことです。彼の質問は「最後のバッターになって、今、何を思うか」というものでした。悔しさをかみ殺して、僕が質問に答えると、なんと目の前で、彼が泣いていました。「どうしたんですか?」と、逆に僕が驚いてしまうほどでした。
『ヒデキマツイ』には三十一歳のありのままの自分が描かれています。「凪」から「凜」まで、全十章を読み終えたとき、あなたも、きっと彼の涙の理由が分かるはずです。