ミシマ社

計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話 (河出文庫)

ミシマ社http://mishimasha.com/というユニークな出版社の代表の方の、ミシマ社ができるまでとできてからが書いてある本を読みました。
世の中の常識から外れてみたら、こんな世界があったよ、と報告してくれているような内容で、おもしろかったです。

P122
「数字を気にしてはいけません」とぼくが言う。
「は、はい」とキムラ。
 キムラモモコが入社し、自社営業がスタートしてすぐの社内ミーティングでの一コマである。
「仕掛け屋チームのミッションは、仕掛けること。いわゆる、会社の数字とかそういうのを一切気にしないで動いてください」
「わかりました!」キムラの目がらんらんと輝いた。
 キムラが入社する直前のあるとき、「チーム名、どうしようか?」と彼女と話していた。
「営業チーム」のリーダーはワタナベ。ぼくは「編集チーム」のリーダー。ミシマ社では、「全員全チーム所属」かつ「全員リーダー」を基本に会社を運営していくことにしていた。
 これは、原点回帰の基本中の基本、「つくる」から「届ける」までを一直線につなぐために欠かすことのできない組織形態ととらえていた。
「これさ、あいつの部署の仕事だから」
 みたいな発言が、自社では絶対に出ないようにしたかった。徹底的にそういう無責任主義が許せないタイプなのだ。
 仕事をサッカーに置きかえてみれば明らかだろう。いったんピッチに立てば、ポジションなんて関係ない。・・・「いや、あいつが奪われたからっすよ」と言ったが最後、その選手は二度と試合に出場できないだろう。
 会社とて同じはずだ。・・・
 ・・・
 ・・・「つくる・送る・届ける」という出版活動も、一連の身体運動に置き換えられる。
 全員が全チームに所属し、かつ全員がリーダーとしての自覚がなければ、分断主義に陥りかねない。・・・一度、ブンダン主義に陥ったら最後、何かがうまくいかなくなったとき、本当の原因すら見えなくなってしまう。
 このような意識のもと、「新チーム名」も考える必要があった。
「つくる・送る」の次にくる「届ける」をメインに担当するチーム。・・・
「仕掛け……そうや、仕掛け屋や!」 ・・・
「仕掛け屋って、何する部署ですか?」
「なんでも仕掛けんねん」とぼくが答えると、「ははは。それ、わたしにピッタリ」と手を叩いて喜ぶキムラであった。・・・
 ・・・この仕掛け屋チームは、「数字を気にしない」ことをミッションの一つにおいている。
「数字」をアップするために仕掛ける、のではないのである。
「数字」を気にしない、のだ。
 その意図は実に明確である。
 会社をやっていれば、経営的にいいときもあれば悪いときも当然のごとくある。だからといって、悪くなったときに、全員がドヨーンとした顔で「ああ、ああぁ……」と地獄の底から響いてくるようなため息をついていては、チームの士気は下がる。そんなときこそ、「元気」が必要とされる。元気は元気なときよりも、元気じゃないとき、真に必要なものだろう。
 そしてその元気は、「数字や結果にとらわれてないところ」から生まれるとぼくは思う。いってみれば「遊び」の部分だ。
 自分の身体を考えてみれば、それもわかる。
 仕事で結果が出なくて元気が出ない。面白くないことがあって元気が出ない。そこで、がんばって結果を求めようとしたり、無理して面白さを求めても、から回りしたり、逆に落ち込みが大きくなりがちだ。むしろ、そんなときは、昼寝をする。あるいは走って汗を流す。川辺でぼーっとして頭を空っぽにする。すると嘘みたいに元気が湧いてきて……。なーんてふうになる(すくなくとも、ぼくは)。
 会社も生き物である以上、同じだと思う。