楽しいことがいっぱいある

道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~ (扶桑社文庫)

 周りの人から、今も野球少年のように楽しそうに野球をする、と言われるそうですが、ほんとに楽しい気持ちが大谷さんから溢れてくるから、みんなずっと見ていたくなるんだろうなと思います。

 

P310

 彼にとっての「てっぺん」とは何か。

「野球は、そこが難しい競技だと思っています。・・・チームスポーツでもあるので、測るものがないというか。ただ、周りから『彼が一番、今までで良い選手だった』という声が聞こえてくる日がいつか来るんだったら、そのときが『あっ、ここ(てっぺん)まで来たんだな』と思える瞬間だと思います」

 ・・・大谷に訊いてみた。高校時代と日本のプロを経た今では、見えているメジャーリーグの風景は違うのか、と。・・・

「何かをやってプラスになること、逆にマイナスになること。成功してプラスになること、マイナスになること。あるいは、失敗してプラスになること、マイナスになること。そこ(メジャーリーグ)には、自分の『やりたい』という要素以外に出てくるいろんな要素があって、それらを全部背負って挑戦しなければいけないと思っています。そこは高校時代とまったく違いますね」

 ・・・今は、アメリカでも二刀流を成功させるための道を歩み出そうとしている。

「その道は、今はまだ見えているようで見えていないと思いますね。教わる先輩もいないですし、自分で一個一個やるべきことを見つけて作っていかなければいけないものだと思います。そういう意味では今後、同じような選手が出てきたときに『僕はこうやってきた』というものを示すことができると思う。そう考えても、向こうで(二刀流を)やる意味はあると思っています」

 ・・・あえて大谷に訊いた。

 大谷翔平の哲学とは?

「ないですよ。まったくないです、それは。そんなに長く生きてないですよ。これから……一個、見つかるかどうかぐらいの大きなことだと思うので、哲学というのは。今は全然ないですね。そこまでの経験がないですから」

 彼は、少しばかり状態をのけ反らせて笑うばかりだ。

 ・・・

「正解はないと思うんですけど、人は正解を探しに行くんですよね。正解が欲しいのは、みんなも同じで。『これさえやっておけばいい』というのがあれば楽なんでしょうけど、たぶんそれは『ない』と思うので。正解を探しに行きながら、ピッチングも、バッティングもしていたら楽しいことがいっぱいありますからね。そこは両方をやっていてプラスですよね。ピッチャーだけをしていたら、ピッチングでしか経験できない発見があるわけですけど、ピッチングをやってバッティングをしていれば、楽しい瞬間はいっぱいあるんです。そういう瞬間が訪れるたびに、僕は投打両方をやっていて『よかったなあ』と思うんじゃないですか」