この辺りも、こういう姿勢いいな~と思って読みました。
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何度も転んで、体のあちこちを痛めながら、僕はモトクロスの腕前をぐんぐん上げていった。ライセンスも取得したし、本気でプロになって世界を転戦しようかと思うくらい練習した。
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スロットルを全開にして突っ走っているとき、マシンと一緒に空中を飛んでいるとき、僕の頭の中からは、Aさんのことも、20億円のこともすっかり吹き飛んでいた。
僕は、「あのときのこと」を忘れたくてモトクロスにのめり込んだのかもしれない。
でも、それもちょっと違うような気がする。
モトクロスは、どれだけ上達してもこけるときはこける。転んでなんぼ、みたいなところがある。
派手に転んで、倒れたバイクを立て直して、またエンジンをかけて走り出す。倒れても倒れても、また走り出す。
僕は、「倒れてもまた走り出せばいい」って、自分に言い聞かせるためにモトクロスをやっていたような気もする。
なんでそんなふうに、倒れてもまた走ろうって思えたんだろう。
それはやっぱり、これまでの人生でジェットコースターみたいな経験をしながら、少しずつそういう力を養ってきたんだと思う。
P235
お金については、かなり質素になったと思う。
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身に着けるものも、やっぱり質素。サングラスなんて600円くらいだし、着ている服も近くのスーパーで買ってきたものを自分でアレンジしている。
たとえば、シャツに自分で縫い物をして、サングラスを引っかけられるようにしたり、小物を入れるポケットをつくったり……。
大まじめに、針と糸で縫い付けている時間が、もうめちゃくちゃに楽しい。
あるとき、こんなふうにアドバイスされたことがある。
「せっかくファッションセンスがあるんだから、ブランドを立ち上げるとか、プロデュースとかすれば、お金になるんじゃないですか?」
でも、そういうお金の稼ぎ方には、正直、興味がない。
自分が知らないところで、知らない人たちがせっせと働いて、僕のところに大きなお金が入ってくる。そういうのは、何かが違うと思っている。
自分がスーパーで買ってきた洋服にいろいろと手を入れて、自分のやり方でお洒落を楽しむ。それで十分。
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・・・ある意味金銭トラブルがあったから、僕はこれまでに経験したことがない、楽しい生活ができている。金銭トラブルがあって良かったとは言わないけど、結果的に僕はお金を使うことを楽しんでいるし、今の自分が気に入っている。