探偵小説のような、ほんとの話を読みました。
ドラマのような潜入捜査をハラハラドキドキ面白く読みつつ、精神力、忍耐力などがもの凄いなと驚きました。
裏社会の人々との駆け引きや、職場の人間関係や、国を跨いだ政治的圧力など、いろんな事情が込み入った中で忍耐強く捜査を進めているのを読んでいると、ちゃぶ台返ししたくなるのはこんな時ではと思ってしまいました(;^ω^)
こちらはそんな捜査の中で、温かいような、ちょっと哀しいようなエピソードです。
P217
二〇〇〇年一月十九日、ベアーが逮捕される前日の私の仕事は、ただ友人らしく軽い握手を交わすことだった。その日の午後には、彼のギャラリーと自宅へのがさ入れが予定されていた。
・・・
ベアーは十七点におよぶ工芸品の違法売買で起訴された。・・・起訴状によれば、違法工芸品の価値は合計で三十八万五千三百ドルにのぼった。
ベアーがまた連絡をよこすとは思ってもみなかった。だが逮捕の二日後、彼は私にeメールを送ってきた。件名には<楽しい時代に>とあった。私はどうしたものかと思いながらメッセージを開封した。
親愛なるボブ。何と言ったらいいものか。ご苦労さま?お見事?きみにはまんまと騙された?
今回の件では打ちのめされたが、それもしかたないと思っている。ただ打ちのめされたのは確かでも、きみとの時間は楽しかった。紳士でいてくれてありがとう。おかげで素敵なクリスマスをすごし、新年を迎えることができた。きみがきみの仕事をしなければ、おそらく別の誰かが同じことをしていたんだろうし、その相手をきみのように好きになれたとは思えない。だから文句はない。いまは多くの事実と向き合うだけだ。
この手紙は冗談でもいたずらでもアピールでもないし、まして字面以上のことを訴えるメッセージでもない。幸運を。ジョシュア・ベアー。
思慮深い男からの小粋な手紙を読んで、私はつかの間罪悪感に駆られた。しかしこの潔いeメールによって、ベアーが意図して何度も法を犯したという事実、彼が愛していると公言したネイティブアメリカンたちの信頼を踏みにじった事実が変わるわけではない。
私はしばらく考えて、翌日に返事を書いた。<この事件は実に手ごわかった。なぜなら、私はきみやきみの家族のことが好きだからだ。いつでも連絡してくれ>
本気でそう思っていた。