人との出会いがやっぱり一番面白いような・・・
コカインじゃなんのことかわからねぇ、っていうのは新鮮でした(笑)
P205
その男は〝インディオ〟と呼ばれていた。・・・
職業は観光ガイド。・・・「ジャングル・ツアーに行かないか?」と声をかけてきた。
私は、そのとき、もうさんざんその手のツアーはやっていたので、適当に聞き流していると、「オレは、この河筋のことは誰にも負けないくらい詳しい」と主張する。
「何しろ」と彼は得意気に言った。「オレは四年前まで、ドラッグの密輸をしていたんだ」
・・・
話によれば、ついこの前まではひじょうに儲かる商売だったので、彼も数え切れないほどレティシアとペルーの間を往復したという。その大半は夜中だ。
ときには警察をかわし、ときにはコカインの運び屋を狙う強盗の裏をかいて仕事をするためには、地理と住んでいる人間を完璧に把握する必要がある、という。なるほど、説得力はある。
・・・
「この仕事のことなら、何でも知っている」と豪語するので、私が、コカインの粉を見たいというと、さっきはもうヤメたと言ってたくせに、「来週、イキトスの友だちが一〇キロ持ってくるから見せてやろう」と答えた。何でも、この前、その友だちが彼の家に遊びに来たとき、ステレオを見て「ぜひ譲ってくれ」と頼み込んだのだそうだ。その代金が一〇キロのコカインなのであった。「そいつは『八キロでいいだろ?』って言うんだが、オレは一〇キロでなきゃダメだと言ったんだ」と妙に強調するのがおかしい。
また、彼は、私が〝コカイン(スペイン語ではコカイーナ)〟と言うのが気に入らないらしく、基本から説明する。それによれば、ハマチが大きくなるにしたがって名を変えていくように、コカインも、精製と加工の過程で、パスタ、バセ、クリスタル、オキシード……と呼び方を変えていくらしい。
「〝コカイン〟じゃ何のことかわからねえ」。インディオ先生はブツブツ言った。「クリスタルとパスタじゃ金と銅くらいちがうんだぜ」。・・・
・・・
インディオの解説が面白い。
「パスタは白いものと赤みがかったものがある。赤みがかったものの方が効くんだが、見栄えがいいということから、マフィアのような大手には白い粉の方が好まれる……」
リンゴにワックスを塗ったり、ハムに発色剤を入れるように、コカインも高級志向になると、味以上に見てくれが重視されるというのは笑える。