はちみつ

ルリボシカミキリの青―福岡ハカセができるまで (文春文庫)

福岡伸一さんのエッセイ集を読みました。
視点も違うし、思考や知識の範囲も違って、へぇ〜がいっぱいでした。

これは、はちみつのお話。
健康にいいと聞きながら、こんな風にすごいとは知らなかったです。

P226
 ・・・不思議な食品がある。冷蔵しなくとも、熱処理しなくても、もちろん防腐剤など一切いれなくとも、ほぼ永遠に腐らない食品。ハチミツである。なぜハチミツは細菌を寄せつけず、腐ることがないのか。それはハチミツを作り出す昆虫、つまりミツバチの習性に秘密がある。ミツバチたちは花を見つけ、花の芯に溢れている蜜を吸う。吸った蜜は体内の特別な貯蔵袋に貯めこまれる。外勤バチはこれを巣に持ち帰り、内勤バチに口移しで渡す。貯蔵袋の中身は素早く、自由に、出し入れできるのだ。内勤バチは蜜を巣の奥の貯蔵室に格納する。この段階では、花の蜜はまだサラサラの薄い砂糖水でしかない。しかしほどなく変化が現れる。ハチの体内を出入りした際に、消化酵素の作用によって、砂糖はブドウ糖と果糖に分解される。糖の数が二倍になり、甘さも増す。そして、内勤バチは巣の中で翅の付け根を絶え間なく振動させて発熱を起こす。
 ・・・
 ・・・強力な翅の発熱と送風によって、巣の中で蜜の水分はどんどん蒸発する。そしてとろりとした黄金色になる。最終的にハチミツ中の糖濃度は八〇%に達する。こんなに濃い溶液は他にない。たとえば塩はどんなにがんばっても二九%以上は水に溶けない。ハチミツのこの濃さに強力な殺菌作用があるのだ。細菌がハチミツと接する。すると何が起こるか。ハチミツが細菌の水分を吸い取り、細菌は脱水症状でたちまち死滅する。浸透圧である。これはバランスを求める水が本来的に持っている動的平衡作用である。・・・それゆえハチミツは古代から、殺菌剤や治療薬としても重宝されてきた。やけどや傷の化膿止めとして包帯を巻く前に塗られたのである。