人の及ぼす効果

「病は気から」を科学する

 薬を誰が、どんな風に渡すかだけでも効き目が違うというお話です。

 

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「僕は錠剤に話しかけます」と人類学者ダン・モアマンは楽しげに打ち明ける。「『やあ、君たちがすばらしい仕事をしてくれるのはわかってるよ』ってね」彼は左膝に痛みがあったが、このテクニックで鎮痛剤の効果を高め、二錠ではなく一錠で効果が出るようになった。

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 要するに、薬を飲む〝儀式〟をつくることだ。・・・心理学者、科学哲学者ハーラル・バラッハは、毎日、同じ時間の服用を勧める―朝の入浴後、決まった部屋、あるいは祈りや瞑想をしながら。・・・心理学者アービング・キルシュは、視覚イメージの利用を勧めている。そのためには、特定の薬やプラセボに持たせたい効果をできるだけ明確にすることだ。「回復した状態を思い浮かべるのです」と彼は私に言う。

 また、研究はわずかだが、ハンフリーやモアマンを含めた専門家たちは、誰かに薬を手渡してもらうと安心感が強くなるため、自分で飲むよりプラセボ反応が大きくなる可能性があると主張する。・・・

 特に子どもたちは、この類のプラセボ効果から影響を受けやすい。・・・

 これは大人にも効果があるらしい。二〇〇八年、カプチャクは、IBSの患者二百六十二名を対象に行った試験について発表した。一つ目の群は治療を受けず、二つ目の群は礼儀正しいが冷淡で無口な治療者からプラセボ鍼治療を受けた。三つ目の群は心やさしく思いやりのある治療者からプラセボ鍼治療を受けた―四十五分間、横に座って、患者の心配事を聞き、安心させたのだ。カプチャクが知りたかったのは、鍼治療そのものがどれだけの改善をもたらし、ベッドサイドでの特別な精神的なサポートがどれだけの改善をもたらすかということだった。

 治療をしなかった群では、患者の二八パーセントが、試験に参加しただけで症状の「十分な軽減」があったと言った。プラセボ鍼治療を受けた患者では、四四パーセントに十分な軽減があった。プラセボ鍼治療と精神的なサポートの両方を受けた群では、その数字は六二パーセントまで跳ね上がった―IBS向けに試験を行ったあらゆる治療の中で、最大レベルの効果だ。

 この実験と同様の実験が浮き彫りにしたものは、おそらくプラセボの研究から得られる最も基本的な教えだとカプチャクは考えている。つまり、医師と患者のやり取りの重要性だ。治療者が親身になり、患者に「自分は脅威にさらされていない、気遣われている、安心できる」と感じさせれば、それだけで大きな生物学的変化が起こり、症状が和らぐ。・・・治療を受けてすらいない患者が改善したとき、その変化をもたらしたのは、患者と彼とのやり取りだったのだ。