創造&老年

創造&老年 横尾忠則と9人の生涯現役クリエーターによる対談集

 横尾忠則さんと、80歳以上のクリエーターとの対談集。

 とても面白く、出会えてよかった♪と思う本でした。

 こちらは俳人金子兜太さん(98歳)との対談です。

 

P140

横尾 ・・・僕は物事が完成しないんです。完成して達成感を得ることにあまり興味がない。それよりも過程に興味があるんです。結果はどうでもいい。結果は批判されてもいい。やっている家庭が面白いということだけですね。だから僕の具合が悪いときはわかりやすいんです。やりたくない仕事を頼まれているときに具合が悪くなるんですね(笑)。

 

金子 ほお、それは都合のいい話で、良いですね(笑)。だけど、私もそう感じます。

 

横尾 仕事に規制は付き物なので、多少自分なりに面白くしたいというふうには考えていますけどね。

 ・・・

横尾 ・・・金子さんは、今日お話をお聞きしていても学問的な言葉を全然お使いにならないし、やっぱりそれが命につながっているんじゃないでしょうか。

 

金子 私は体験だけをしゃべっていますからね。

 ・・・

横尾 ・・・そう考えると金子さんは戦争でずいぶん悲惨な目に逢われて、ふだんは見ないようなものを見てきたんだけど、それがその後の仕事とか人生につながって。そういうことを考えると、そういう運命に向けられていたというふうにも考えられますよね。

 

金子 自分では、そう思うしかないと思って生きています。だからあまり苦にならないですね。

 その努力をする必要もないし、努力すればそれだけ自分の自我が出てきて人と競争をしないといけなくなるけど、努力なしでできたものに関してはそこに自我は入ってこないですよね。

 ・・・

横尾 ・・・こういうのは語りにくいことかもしれないけれど、世界が終わって、自分も死んだら、自分の考えも思想も死んで、そのまま無になってしまうという考え方が、今は一般的で、これは非常に立派な考えに聞こえますが、僕はやっぱりそうじゃないと思います。

 これから先と、ここへ生まれてやってくる以前というものは、やっぱり関係しているような気がするんです。

 

金子 全くそうだと思います。

 

横尾 それを神秘主義者が言いそうな言葉では言いたくなくて。

 

金子 私が申し上げた「他界」という考え方はそういう考え方ですね。

 

横尾 そうなんです。「他界」というのは異界でもないし死後の世界でもないし、霊界でもない。他界というのは素晴らしい言葉だと思います。

 

金子 ねぇ?天才的発想だと思います(笑)。

 

横尾 本当にそうだと思います。これを霊界と書いてしまうとうさんくさい話になってしまう。

 

金子 次の世界があるということでいいんですよ。そういうふうに考えたほうがずっといいと思います。

 ・・・やっぱりねえ、この世がなくなるとか、そんなことはない。そんな考え方はいらないんじゃないか。生きている以上あるんだよ。・・・

 

横尾 そうじゃないと、何で自分が今ここにいるのか、理由がわからないんですね。

 お前はこの世界に何しに来たのかと言われた場合、どうも自分の意志で生まれてきたような気がしないでもないんですよ。生まれる以前の意志みたいなものがないと不公平なんですよね。

 ・・・今はある一時期を切り取って見ているから不平等に見えるだけで、これをこの世界の以前と以後の長いスパンで見れば、宇宙はみんな平等に命を地上に送ったような気がするんですよね。

 

金子 私はそれを他界で救われるというふうに言っているんですね。他界というのはそういう存在だと思います。いつも救いの手をさしのべている世界というふうに思っていますから。虫のいい言い方かもしれませんが。

 

横尾 それはそうだと私も思いますが、一般的に受け入れてもらえるでしょうか(笑)。

 

金子 ふつうは、あまりそう思わないかな。

 

横尾 あまりそれを突っ込んでやると宗教の話になってしまいますからね。

 

金子 それでも、私たちの本音はそうなんですよね。やっぱり他界はあるんですよ。