こちらは美術家の李禹煥さんとの対談です。
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横尾 ・・・僕たちは同い年(対談時、両氏はともに八十歳)なんだけれども、今ね八十歳以上で、しかも話を伺っている皆さんは物を創る人たちばかりなんですが、とにかくいろんなジャンルの人たちに会って、物を創ることと、その作家の健康とか延命とか、寿命などについてお聞きしているんです。・・・
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それで面白いのはね、そんなこと考えたことがないって言う方が大半なんですよ。
李 まぁ、恐らく僕もあんまり考えたことがない。
横尾 それがね、すごい面白いんです。自分の年齢も考えたことがない。あるいは、自分の健康や病気、近い将来どうなるか、それも考えたことがない。死っていう問題も、そんなに考えない。そういう方がほとんどで、そこで結論が出ちゃうんですよ。だからそういったことを考えないことが、いわゆる長寿の原因というのか、理由なんだなと。でも、その方たちはみんな創造しているわけだから、当然といえば当然ですよね。だけど、その(年齢に頓着しないという)考えに至る原因は創造活動をしているからだと思うんですが、この関係さえ無頓着なんです。そこがまたいいんですよね。
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李 ・・・身体っていうのはね、小さいけれども、本当は宇宙とおんなじくらいの広がりがあると思うんです。
・・・肉体には皮膚があるでしょ?僕は、これがかなり偉いと思うんです。なぜかと言うと、外との関係です。身体は外との関連を持っています。でも脳っていうのは、外との関連がないんです。いくら脳が大きくたってね、それは閉ざされた世界。身体は閉ざされてない。外との関わりで無限が出ます。得体の知れない、或いは未知なものとの関わり方は、身体の方がずっと優れている。僕は、そう思います。
横尾 ・・・身体っていうのは、肉体ですよね?肉体は嘘つけないじゃないですか?
その代わり、脳はいくらでも嘘をつきますからね。すぐ大義名分によって言い訳を始める。・・・
身体の中の声ってあるじゃないですか。僕は身体の中の声っていうのは、脳の声ではなくって、あくまでも身体、肉体の声。そちらに従わないと、頭の声に従うと、ろくなことないわけ。身体の声は頭ではなく魂の属性と言ってもいい。妙な社会的理由で脳みたいなものの言い方はしないですよね。痛きゃ痛い。寒きゃ寒いと正直です。本当に頭はろくなことない。
李 ろくなことないですね。頭の声だけに従って、人を魅せられるようにしたり、感動させたり、それは無理なことです。