人を大事に

一流の本質~20人の星を獲ったシェフたちの仕事論

 図書館で見かけて読んでみました。料理人として一流とされる方々が、修行時代やお店の経営について語っている本です。想像以上に過酷な仕事だな~とびっくりしました。人への思いやりがみなさんの共通ポイントかなと思いました。

 

 こちらは神楽坂「石かわ」の石川秀樹さん。

P75

 以前、若いスタッフが半年おきくらいにコロコロ変わってしまう時期がありました。この世界も向き不向きがありますし、各々に事情もありますから、辞めた子を悪くは思いません。ただひたすら悲しくて、スタッフが辞めるたびに私は大泣きしました。

 だって、彼らの夢を潰したのは私なんだから。誰だってイヤな思いをしたくてこの世界に入ってくる人はいないはず。どんな人も、夢や希望を持って入ってきてくれるのに、それを潰してしまったのか、と。

 でも、泣いてばかりいるわけにはいかない。そこで、スタッフにうちにいてもらえることを喜んでもらえるように、色々なことをやるようになりました。毎日夕礼もしますし、業務の連絡や報告をするだけでなく、ちょっとした読書会もやっています。本を読むのはとても大切。良書を読むというのは料理に限らず、人としての心を整えるための大切な教育の一つだと考えています。

 ほかにも、自分の夢や趣味などテーマを決めて話していたこともありました。スタイルは変化していますが、自分のことをみんなの前で話すということは、ここ10年くらいやっています。

 日々忙しくしていると、ともすれば調理場とホールの関係はコミュニケーションが不足して、お互い自分中心に動いてしまう。そういうことを絶対に避けたくて。お互いが、相手を「作業するロボット」ではなく、「心を持っている存在」なんだ、ということを意識できるようにしたいと思っています。

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 日本料理の徒弟制度には理不尽な面もありましたが、良い面もありました。親方が家族のように弟子の生活や職の面倒を見てくれましたし、親方や兄弟子たちとの交流から対人関係の機微も学ぶことができた。理不尽な面も、今では理不尽こそが人をたくましく育てると思っています。

 私は、その良いところは残しつつ、さらに良いシステムをつくりたい。料理もお店づくりも、今までにないことをやりたい。それこそが仕事の意義だと思っているので、社員寮を用意したり、社内報を発行したりして、社員の家族や関連業者にも配布しています。

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「石かわ」が今あるのは、もちろんたくさんの方に支えられてのことですが、もう一つには、この12年間、利益よりも喜びを大切にしてきたからでもあると思うんです。だから、スタッフの教育でも大事にしているのは、きちんと自分を整えて、きちんと相手に喜んでもらうことの大事さを伝えること。

 料理人に限らず、どんな仕事でも大事なのはそこだと思うんですよ。私自身も体験学習してようやくわかってきたのですが……。

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 物事をコントロールしようとすると思うようにいかないもの。今になって、すごくそれを感じます。良いものをそのままで出していく。私はできることを実行していくだけ。

 食を通して、喜びの輪を広げていく。「起点は人」だということを忘れず、ゆっくり、じっくりとね。