即興のコツ

文・堺雅人 (文春文庫)

 即興というお芝居のコツ、人生にも通じるような気が?

 

P156

 即興(インプロ)とよばれるお芝居がある。お客さんからひとつお題をもらい、それをキイワードにその場で一時間くらいの作品をつくるというものだ。数年まえに僕も何回かやったことがある。

 即興なのでもちろん台本はない。ひとつのお題からイメージをふくらませ、バラバラなシーンをいくつかつくり、最後にはそれらがひとつの物語にまとまっていく、というのがおおまかなながれだ。

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 まだ邦訳はでていないが、シャルナ・ハルパンらの共著で『トゥルース・イン・コメディ』という即興の入門書がある。そこには演じるときのコツというか、心得みたいなものがかかれてあって、それはたとえば、

「自分に素直になりなさい。それだけで立派なみせものになるのです」

「まわりの俳優を天才詩人のように扱え」

「自分をよくみせるには、まわりの俳優をよくみせようとするのが一番だ」

 などというものだが、舞台でニッチもサッチもいかなくなったとき、これには随分たすけられた。いまでも時々おもいだすことがある。よほど舞台でオソロシイおもいをしたためにカラダにしみついているのだろう。

 いいわすれたが、即興の基本は「イエス、アンド」である。あいての提案を否定せず、「そう、それでね…」とうけいれながら物語をつむいでいくのだ。