固定観念を崩してくれる本

再開です(^^)

謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア (集英社文庫)

 戦闘や拉致など、怖ろし気な話が多いのですが、高野秀行さんが興味深く読める形にしてくれているので、そういう文化(というかなんというのでしょう?)があるのだなと、偏見に邪魔されずに知らなかった世界を知ることができました。

 こちらはほんのさわり部分ですが、ちょっと雰囲気がわかるところです。

 

P230

 ソマリ人を二十分おとなしく座らせておくのは、犬を二十分おとなしく座らせておくのと同じくらい難しい―。

 それが前回のソマリランド旅と今回のケニア旅で得た「発見」である。なにしろ、ソマリ人はせっかちだ。とくにインタビューのような一対一の質疑応答は彼らの習慣にない。あくびをしたり、きょろきょろしたりして、みるみるうちに集中力を失う。さらに三分に一回くらい携帯に電話がかかってくる。電話に出るなとも言えない。彼らはひとしきり喋って電話を終えると、私に「もう、いいだろ?」と言う。

 ・・・

 彼らの会話に割り込むのも一苦労である。会話に切れ目というものが全然ない。ほとんど一秒か二秒の間隙を縫って発言をしなければいけない。ソマリ語だから、なおさら会話の切れ目が見えない。たまに、向こうから話を振ってくるが、このときも瞬間的に反応しないといけない。「えーと……」なんて言った瞬間に別の人が話し始めている。「まるでテレビのバラエティ番組に出演してるみたいだ」とその度に嘆息した。私はかつて関西ローカルの深夜バラエティにレギュラー出演していたことがある。そのときも司会者に振られたら間髪入れずに答えないと、すぐ他の人に話を持っていかれてしまった・・・テレビに出ている人というのは、特殊能力の持ち主なのだなとしみじみ思ったのだが、ソマリ人はほぼ全員がその特殊能力を持ち合わせているようだった。・・・

 ・・・

 面白かったのは結婚の話。

 ケニアの難民キャンプで泊まったヒロレ長老の家では長老を含めて、家族の半分以上が離婚経験者だった。ヨールのオフィスで訊いたら、ワイヤッブを筆頭にやっぱりバツイチのオンパレードである。バツ2やバツ3も珍しくない。私のその後の経験も含めて話せば、三十歳以上のソマリ人で離婚経験のない人のほうが少数派だろう。

 また、腹違いの兄弟がいない人も少数派である。

「どうしてそんなにすぐ離婚するの?」と訊くと、ワイヤッブは真顔で「だって、憎み合う二人が一緒に暮らすなんて地獄だろ?」と言う。答えになってないが、気持ちはわかるし、その率直さに思わず笑ってしまう。

 なぜ憎み合うハメになるかというと、それは男が外に女を作るからである。難しいのは、これが「=不倫」ではないというところだ。

 イスラムでは男は最大四人の妻を持つことを認められている。・・・

「でも、ほとんどのソマリの女は二番目の妻を嫌がる」とソマリの男たちはため息をつく。

 まあ、そうだろう。・・・

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 ソマリ人、夫婦仲の崩壊も「超速」なのである。日本だったら、まずセックスレスになり、夫婦仲がだんだん冷めて、その結果、どちらかに愛人ができて……と段階を踏むと思うし、冷めた仲でずっと行くケースも少なくないと思うが、せっかちのソマリ人は一気に行ってしまうようだ。

 ・・・

 ソマリ人はすぐ離婚する。逆に言えば、バツイチだろうが子連れだろうが、再婚に差し支えない。「子供は多いほどいい」と彼らは言う。

 

P504

 彼らはなぜか知らないが、めったにドアをノックしない。従業員でもただの知り合いでも、まずは私の部屋のドアノブをガチャガチャ回す。反応がないと拳でガンガン叩く。

 物はなんでも投げる。現金でも人のパスポートでもなんでも投げる。彼らが投げないのは携帯電話だけ。・・・

 出会ったときはともかく、別れるときは挨拶をしない。「また明日」と言いかけたときには背を向けている。電話は必ず唐突に切れる。人の話は基本的に聞かない。人にものを教えるのは大好きだが、教えられるのは嫌い。・・・

 だが、慣れてくると、・・・全く居心地のよいところだった。