迫力があります

あの人の宝物: 人生の起点となった大切なもの。16の物語

 美術家の田窪恭治さんと草間彌生さんのこのエピソード、こういう生き方もあるんだなと印象的でした。

 

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 若いころは怖いものがないと簡単に言う。だが、たとえばマルセル・デュシャンに代表されるような反芸術ともいわれる現代美術を、無名の青年が生業にしようとしたとき、日本はひどく冷たく過酷だ。先の見えない不安は、怖れに変化しなかったのだろうか。

「そりゃあいろんな不安が伴います。三十代半ばになっても収入もない。どんどん臆病になりかけていたあるとき、評論家か誰かがテレビで、〝学者や芸術家は年金なんかあてにするな〟と言っていました。芸術は守りじゃだめだってね。でも現実の生活では僕は、生活保護をもらおうかと考えている。しばらくしてから、仲良くしてもらっていた草間彌生さんに、生活保護を考えたこともありましたと話したら、彌生さんが真顔で〝もらえるものはもらいなさい。それをもらって絵を描くのよ!〟と言われたんです。目からうろこでした。描くためなら世間体などどうでもいい。彌生さんも体を張って芸術をやっている。書物には出てこない言葉ですが、大切なことを学びました」