月並でないことについて

日本人へ 危機からの脱出篇 (文春新書 938)

こちらは、内定がもらえないでいるあなたに、というタイトルのエッセイの一部です。お母様も面白い方だなーと思いつつ、共感して読みました。

 

P63

 入社試験に失敗したときにまず考えるべきことは、その会社があなたを必要としていないからと言って、社会までがあなたを必要としていないのではない、ということである。

 ゆえに、内定をもらえなかったというだけで、あなたの人格までが否定されたわけではまったくない、ということだ。

 第二は、今の日本は停滞していて、新規採用すらも安全志向が強いということ。言い換えれば、会社のわくからはずれている人材でも採るなどという、冒険は犯さないようになっていることだ。

 これは今の日本の会社に見られる一般的な傾向だが、変わり者を採用した場合に起るかもしれないリスクは、人事担当者が負うという仕組みによるのではないかと思う。なぜなら私も、内定さえももらえない一人であったからだった。

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 書類選考は通ったらしく、面接には進んだ。小さな会社だったので、面接は社長自らが行う。それで聞いてきた。英文タイプはできるか。私の答えはノウ。速記はできるか。それへの答えも否。社長は言った。いったい全体、あなたは何ができるのか。若かった私は、ニッコリして答えたのだ。六カ月の間私をお使いになれば、おわかりになります、と。

 これで、落ちたのである。だが、落胆もしなかったし、ましてや人格を否定されたなどとは少しも思わなかった。帰宅して報告したら、母が笑いながら言ったのだ。月並でないあなたを月並な男が採ったとしたら、そのほうがおかしいわよ。

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 起業と言えるほど大げさなことまでやる必要はない。だが、そこそこの才能と、一般的な社会の傾向に捕われない発想力の転換と、若いからこそ持てる、蛮勇と言ってもよい勇気。また、安定などはなくてもいいや、という居直り。

 そして何よりも、一会社が必要としていなくても、それは社会があなたを必要としていないということではないという、現実的で冷徹な信念。

 これらのことさえあれば、どうにかなりますよ。・・・