生きているだけで

下北沢について (幻冬舎文庫)

 作品というかなんというか、何はなくともただ生きていればいいらしい…と思います。

 

P149

 人というものは生きているだけでその人自身が作品なんだと思う。

 ・・・前にイベントをやったときのこと。調子が悪くて来られないかも、孤独でしかたないと言っていた心を病んだ女の子が、なんとか来てくれた。少しお話ししたけれど、作品はともかく私本人はその人になにもしてあげられない。

 がんばってほしいと願いをたくさん込めて話をした。

 次のイベントのとき、彼女はほんの少し明るくなって、来てくれた。

 この間調子が悪かった人ですよね、調子どう?とは決して言えなかった。なんだか軽々しく思えたし、ただ見つめ合って微笑むだけがいちばんいいと思った。

 彼女はまだいろいろたいへんなことがありそうに見えたけれど、その足は地面をしっかりふんでいたし、瞳は生きている人だけのすばらしい輝きをたたえていた。

 自分では決してそう思えないだろうと思うんだけれど、あなたはそうやって生きているだけでやっぱり作品なんだと言いたかった。創ったのは神様でも両親でもない、その魂が肉体に入っている組み合わせはたったひとつ、あなたが日々選ぶものがあなた自身を映し出しているんだよって。

 今も、自分を含め、いじけている人全員にそう言いたい。