芸のあるワルグチ

「綺麗な人」と言われるようになったのは、四十歳を過ぎてからでした (光文社文庫)

久しぶりに林真理子さんのエッセイを読みました。

住む世界があまりに色々違うので、興味深かったです。

この人間関係のお話の最後の「芸のない、人のワルグチを言っちゃダメよ」っていいアドバイスだなと思いました。

 

P214

 私は職業柄、いろんな人に会い、私も人間関係で苦労し、大きなことがわかった。それは男も女も、可愛気のない人はダメだということだ。

 可愛気とは何であろうか。それはゴロニャンと他人にすり寄っていくことではない。ひと言でいえば、素直でやわらかい心を持っていることであろうか。

 知らないことは知らないという。知ったかぶりはしない。人の話をよく聞く。あいづちがうまい。ごく簡単なことであるが、これが出来るのと出来ないのとでは、人の好かれ方がかなり違ってくるようだ。

 年下の人なのであるが、私がどうも苦手とする女性がいる。私は彼女のワルグチを今まで外で言ったことはないのであるが、ある時女友だちが何人か集まった時、そこにいる女性がみんな彼女に対して同じような考えを持っていることがわかった。

「あの人ってどうして、自分が何でも知っていると思っているのかしら」

「そう、そう、いつも高みからものを言うわよね」

 そういえば彼女の口調の特徴は、

「○○は××なのよ」

 とえらく断定的なのである。

 ある時、彼女がオペラについて非難しているのを聞いたことがある。

「あのさ、あなたは、ごくたまにオペラを見るぐらいで、そういう言い方はないんじゃないの」

 私がそれとなく注意したところ、

「私には直感というものがある」

 とのたまい、これには笑ってしまった。

 その他、自分のことを一方的に喋りまくる人、暗い人、自慢をする人、他人のワルグチばかり言う人、噂話をする人、というのも人に好かれない。

 そのくせ多くの人は、特に女性はこう言うことがある。

「あの人は、ワルグチを言わないから信用出来ない。油断ならないわ」

 女としての大切なコミュニケーション能力に欠ける、ということらしい。ここは男性には理解出来ない心理であろう。

 ひと頃、私はお酒を飲む時に、人のワルグチを絶対言わないようにしていた。言ったこともないことをよく業界紙に書かれ、叩かれていたころである。・・・いくらお酒に酔っても、編集者の前でうかつなことを喋ったことはない。が、人のワルグチを言わない飲み会はつまらないし盛り上がらない。よってその日のメンバーを見渡し、人間関係、信用度、人柄、テリトリーを細かくチェック。TPOを選びぬく。

 このくらいの知恵がなくて、どうして大人の社交が出来るだろう。私の尊敬する田辺聖子先生がおっしゃった。

「芸のない、人のワルグチを言っちゃダメよ」

 メンバーをまず確かめるのも芸のうちである。