旅に出たナツメヤシ

旅に出たナツメヤシ

ブログ再開です(^^)

「旅に出たナツメヤシ」どんな内容なんだろう?と思うタイトルと、楽しげな表紙にひかれて読んでみました。

パリ、ペンシルバニア、ロンドン、チューリヒジュネーブと移住し、今はまたチューリヒに住んでいるという著者の、誰かと囲む食卓や、おいしい記憶のエッセイ。

楽しい一冊でした。

 

P126

 日本に住んでいたときは、朝から晩まで仕事をしていて、夕食も出前のラーメンやカツ丼みたいなものばかり。・・・

 ・・・

 しかし、そんな生活をそっくり後ろにおいて移住したパリ一年目は、学生の身分で貧乏だったけれど、なにしろ時間だけはたっぷりある。

 このパリの、目にも麗しい魚たちをさばいて食べてやろうじゃないの!

 フランス語の習得よりも、むしろこちらの目標のほうがいっそう、私を夢中にした。そういう経緯があっての有次の包丁、そして『さかなの本』だったのである。・・・

 包丁と本を手にしたそれからの私は、(そこがパリだというのに、無人島に流されたロビンソン・クルーソーごっこでもしているような気分になって)それはそれはいろんなことを試してみた。パリにはコルドン・ブルーや上野万梨子さん(ご近所でした)を皮切りにお料理教室が林立していて、留学組から駐在員の奥様たちまで、こうした学校に在籍して勤勉に料理を学ぶ同胞は枚挙にいとまがなかった。けれど私はそうしたお教室の類いには、どういうわけかまったく興味が抱けなかった。おそらくは、子供の頃から、どうも「学校の勉強」というものに一生懸命になれない自らの気質を熟知していたからだろう。回り道や無駄の多い独学が好きなのである。いやそもそも、回り道や無駄、ということが楽しいのである。そうでなければ、なぜ、お金もなく、何の将来設計もない状態で仕事を捨てて一気にパリに移住したりするだろうか。