レオナルド・ディカプリオの経験

脳科学は人格を変えられるか? (文春文庫)

 

役に入れ込み過ぎたレオナルド・ディカプリオ強迫性障害の症状に悩まされるようになってしまったという話、治療の参考になることが書かれていました。

ここに出てきたジェフリー・シュウォーツさんの著書「不安でたまらない人たちへ」、これから読もうと思ってます。

 

P295

 アメリカ人の飛行家で、エンジニアでもあり、事業家でもあったハワード・ヒューズは生前、不安系統の深刻な失調である強迫性障害を発症し、一九七六年に亡くなるまで、この病気に翻弄されつづけた。強迫性障害の患者は全世界で何百万人にものぼる。この病気の患者は興味深いことに、すべてがきちんとしていることを知っていても―たとえばストーブの火を消したことや、玄関に鍵をかけたことを重々承知していても―それでもなお、同じことを何度も何度も何度も繰り返しチェックせずにはいられない。・・・

 ヒューズの死からおよそ三〇年後、彼の伝記的映画である『アビエイター』が製作され、俳優のレオナルド・ディカプリオが主人公のヒューズ役を演じた。役に一〇〇パーセント入り込むためにディカプリオは、強迫性障害についてさらに多くを学ぼうと、精神科医ジェフリー・シュウォーツのもとで数日を過ごした。この病を抱えて生きるのがどういうことかを間近で見るために、シュウォーツの患者の幾人かと一緒に生活までした。役にあまりに入れ込み過ぎたせいか、彼自身、強迫性障害の患者と同じような思考や感情をいだいたり、同じような症状に悩まされたりするようにまでなった。つまりディカプリオ自身の脳内で、強迫性障害の症状が一時的に引き起こされてしまったのだ。撮影が終わってから、症状を消すために集中的なセラピーと訓練が行われたが、元通りに回復するまでには三カ月近い時間がかかったという。

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P323

 ・・・強迫性障害の患者を悩ませるのは「何かが誤っているのではないか」という絶え間ない不安感だが、こうした患者の脳内では<眼窩前頭皮質>と呼ばれる場所が活動過多になっている。脳のエラー探知機であるこの部分は、脳の前面の下側、ちょうど前頭前野の下あたりに位置し、扁桃体と回路で結ばれている。強迫性障害の人はこの眼窩前頭皮質扁桃体の双方で活動が増し、その結果、回路に機能障害が起き、しかもそれがなかなか改善しない状態になっている。

 レオナルド・ディカプリオに助言を行ったカリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神科医、ジェフリー・シュウォーツは、強迫性障害の治療を追究しつづけており、この分野に大きな進歩をもたらした。そのきっかけとなったのは、自身実践的な仏教徒で瞑想の効用をよく知っていたシュウォーツが、強迫性障害の治療にマインドフルネス瞑想法を活用しようと考えたことだ。・・・これが、<マインドフルネス認知行動療法>として知られるようになる手法だ。・・・症状を、<憂慮すべき何か>として認識するのをやめ、脳内回路の失調のあらわれとしてとらえ直すことを彼は患者に教えたのだ。