色々な機能の合わせ技

不自由な脳―高次脳機能障害当事者に必要な支援

 引き続き、会話する状況に関してのお話です。適切に会話できている状況は、いろんな能力が滞りなく機能した結果だということがわかります。

 

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山口 右脳のことって意外となくて、リハ職の方もあまり理解されてなくて、先ほど非言語的なコミュニケーションを右脳がやっていると言いましたけれど、そういうジェスチャーや、今、目線をちゃんと向けてくださっているけれど、表情なども実は右側の脳がやっています。だから右脳にダメージがある方は、無表情で無愛想だと言われたりしやすいと思うけれど、それは症状としてあるので、そこをどのように支援するかということが実は大事なことだと思うんですけれど。

 

鈴木 無表情で無愛想で、しゃべれないと言っているくせにものすごい早口になっている。

 

山口 一方的にしゃべる方が多い……。

 

鈴木 そう。それはあとで話しますけれど。早口なのはそれなりに理由があって、まず必要以上に感情が大きく出ているので、言葉のアクセルが踏み込まれてしまう感じ。あと相手に言葉を挟まれると真っ白になってしまうとか、早く話し終えないと自分が何を言いたかったのかを話しているうちに忘れてしまうぐらいワーキングメモリが低いとか。諸々合わさって一方的な早口になってしまうんですが、最大の理由は自分の伝えたいことが相手にきちんと伝わってないんじゃないかっていう焦りだと思います。

 

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山口 ・・・本をお書きになって、・・・お読みになった方たちからは、鈴木さんに「ここが同じだ」とおっしゃってきたかと思います。・・・

 

鈴木 一番共通してこれだと言われる感想は、しゃべりづらさですね。しゃべれない。会話のキャッチボールができない。・・・会話が難しいのは、情報処理が遅いこととワーキングメモリが低いことと感情のコントロールができないことと、咄嗟に適切な言葉が浮かばないことの複合的な合わせ技だという解釈。それは高次脳機能障害以外の方も言ってくれます。

 

山口 高次脳機能障害以外の方というのは?

 

鈴木 精神疾患全般、発達障害の当事者も「本当にこれ!これが私のしゃべりづらい理由です」っていう声が多いです。あとは雑踏でのパニックや入眠時の過換気発作など、個々のパニックのエピソード。そして退院直後の常に涙が出る準備ができていてちょっとした刺激があっても涙が出たり、感情のコントロールができない状態や、嫌なことについて拘泥してしまうといった、情緒面のコントロール困難。会話・パニック・情緒の三点の不自由が、共感の多い部分だったと思います。

 

山口 それこそ、高次脳機能障害リハビリテーションではあまり扱ってこなかったところだと思います。・・・訓練をされる方たちは・・・注意、記憶のリハを、いわゆる機能回復中心の認知リハビリテーションということを中心にやっているわけです。確かに注意も記憶も苦手になっていらっしゃるけれど、日々の生活の上では多分そういうものが複数絡んで、日常生活での困りごとが起こってきているんですよね。

 

鈴木 そうですね。普遍的に起きる症状として注意と記憶が大きいのは当然だと思います。でも注意と記憶が悪いことによって一番起きやすい困りごとは、しゃべりづらい、考えがまとめられない、あとは合わせ技で物事の手順が組み立てられずに混乱する、つまり遂行機能障害ということだと思います。

 

山口 また、しゃべりづらいということが、人を避けてしまったり、人との関係に自信をなくしてしまうことにつながりやすい。

 

鈴木 はい。それから、そこに情緒も絡んでくると思います。

 ・・・

 だから、社会的行動障害も情緒としゃべりづらさなどの合わせ技であって、単体の機能を上げたらどうなるってもんじゃないと思うんです。