新しい世界を見る

「プロフェッショナル 仕事の流儀」スペシャル 挑み続ける力 (NHK出版新書)

こちらも羽生さんの言葉で、印象に残ったところです。

P25
 ・・・将棋の観戦記などを見ると、羽生さんは勝ち負けを超越したところで将棋を指している、と書かれていたりする。一〇年前の番組でも、あえて冒険的な一手を指し、結果的には勝負には負けたものの、「一つ二つ負けるのは、別に苦になりません」と明るい表情で語る羽生さんの姿があった。
「勝ち負けだけなら、じゃんけんと変わらない」と言う羽生さんは、単なる勝敗を超えて、面白い将棋が指せたかどうか、あるいは、何か新しい世界が見えたかどうか、ということで気持ちが奮い立つようになったという。
 しかし、勝負師である以上、仙人のようにまったく勝負を度外視しているわけでもなさそうだ。
「勝ち負けにこだわるという部分も残しておかないと、やる気も続かない(笑)。一手を指すときに負けることを恐れないつもりでもあるし、同時に将棋的には勝ちにつながることにもなっている。同じことをやっていても、その二つを含んでいるということなんです」
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「気持ちってけっこう面白くて、お天気みたいに日によって違うものなので、そのとき次第でやり方を変えることになりますね。やる気がみなぎっている時はほっておけばいいし、気持ちがあまり乗ってこない状態なら、それなりのやり方を試みる。それに、一日ずっとブルーということもないし、一日中ハイということもないんですよ。松岡修造さんみたいに、あれだけいつもテンションが高い人は特殊なんです(笑)」
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 一〇年前の取材中、ユーチューブがまだ日本でほとんど知られていなかった頃だったが、「ユーチューブっていう、素人が動画をアップする面白いサイトがあって、これから流行るんじゃないか」と予測していたのが、強く印象に残っている。
 もともとの性格もあるだろうが、羽生さんは意識して、自分が知らない世界や情報に接することで、刺激を受けているようなところもある。それは「直感力」を磨くうえで大事な「野生のカン」を研ぎ澄ますことにつながる、と羽生さんは考えている。
「現代人として都会で生活していると、どうしても単調な生活になりがちです。だから、日常生活でも、自分が慣れない場所に身を置くことが大事だと思います」
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「・・・あまり行ったことのない場所に行ってみるとか、やったことのないことをやってみるとか。たとえば東京でも、ちょっと裏通りに入って歩けば、迷路みたいな場所がありますから、ふだん通らない道を歩いてみるとか、あるいはスマホに頼らないで自分でルートを探してみるとか、そういう機会を見つけるといいと思いますね。通勤するときでも、週に何回かは早起きして違ったルートで行ってみるとか」