旅する胃袋

旅する胃袋 (幻冬舎文庫)

角田光代さんがこの本について語っているのを読んで、読んでみたい♪と思いました。
面白かったです。
本の最初に
「人並みはずれて丈夫な胃腸と、どんな過酷な旅にも耐えられる頑強な肉体を私に与えてくれた両親に、感謝の気持ちを込めて」
と書いてあるとおり、たくましいエピソード満載で、でもそれは本題ではなく、メインはあくまで美味しい食べ物の話で、読んでて旅をしている気分になれて楽しかったです。

ここは、インド旅行の準備として、毎日カレーを食べたという話…この発想が面白いです。

P25
 そうだ、インドに行こう!今思えば、あまりにも類型的な発想で笑い出したくなるが、二十歳の私にとっては、切羽詰まった思いだった。
 ……と、それなりに内面的なあれやこれやがあってアジアの旅を企てたはずなのに、旅の準備としてまず私がやったのは、辛い食べ物に慣れること。
 辛いものが食べられなければ、旅の途中で挫折するかもしれない。そんなことにならないよう、できるだけ毎日、インド風のカレーを食べよう。機会があれば、タイ料理の辛さにも慣れよう。
 私は「一日一カレー」というばかばかしい目標を自分に課して、辛いもの修行に励んだのである。
 その頃の日本ではタイ料理はまったくポピュラーではなく、タイ料理専門店といえば有楽町の「チェンマイ」しかなかった。・・・(今思うと、まったく隔世の感があるが……)。
 私は、バンコクのインターナショナルスクール出身の友人R君を誘って、「チェンマイ」にタイ料理を食べにいくことにした。タイ経験者が一緒でないと不安だったからだ。
 ・・・
 確かグリーンカレーと、あと二品くらい注文したと思う。ひとくち食べて、聞きしにまさる辛さに、一瞬、ギョッとした(私を驚かすために、Rはことさら辛いものを注文したのかもしれないが)。口のなかと胃が火事になったみたいで、涙が止まらない。
 旅に出たら、こんなに辛いものを毎日食べなくてはいけないのか!えらいこっちゃ。これは心して辛いものに慣れなければと、それからますます修行に拍車がかかった。
 タイ料理に比べ、インド料理はけっこうポピュラーなので、一日一カレーはそう難しい課題ではない。
 まずは老舗、今は亡き名物オーナーがいた銀座の「ナイルレストラン」。・・・
 同じ銀座では「デリー」も忘れられない。あるとき店に入ったら、インド人従業員が逆立ちをしてヨガの真っ最中だったのには驚いた。
 お気に入りは、今は麹町に移転したが、当時は九段下のインド大使館の近くにあった「アジャンタ」。・・・
 ・・・
 ・・・学校で昼食を抜き、帰りにカレーを食べる。それも、カシミール風など、なるべく辛いヤツを。そんな生活が、かれこれ二ヶ月近く続いただろうか。
 ・・・
 ・・・涙ぐましい訓練の結果(実際、涙を流すこともよくあった)、辛さに対するキャパシティーは、明らかに大きくなった。
 これで、もう大丈夫。あとは、日本を飛び出すだけだ。