人生を生き切る

ホセ・ムヒカと過ごした8日間―世界でいちばん貧しい大統領が見た日本

こちらはあとがきの一部です。
ムヒカさんの言葉からの、著者の考えが語られています。

P176
 ムヒカさんは、「生きることを恐れるな。人生にはリミットがある。その人生を十分に生き切りなさい」と言う。
 私は小さい頃から、何かあるたびに「人生はたった一度切りだから」と思って勇気を出してきた。笑われそうだが、小学校の水泳の授業で一〇〇メートルを泳ぎ切る挑戦をして、ゴールの一〇メートル手前でおぼれそうになったとき、そう思って泳ぎ切ったことをいまでもよく覚えている。最近も、会ってもらえそうになどない人に会いたくて、迷った挙句に手紙を書いたがまだ迷い、最後は「人生一度切りだから」と思って投函した。
 やりたいことがあるけれど、自信がなかったり、失敗を恐れたり、相手の反応が怖かったりして勇気が出ないとき、いつも「たった一度切りの人生なんだから」と、視点をずっと後ろに引いて、自分を時間的にも空間的にも俯瞰して見つめるのである。すると、「生きているうちにやらないでどうする」と思えてきて、いろんな恐れもたいした問題ではないように見えてくるのである。失敗したら、そのときにまた考えて、乗り越えて、生きていけばいいのだと。
 そうは言っても、日々の暮しには大小さまざまな苦労が押し寄せる「『世界を変えたかったけれど、いま家の中を掃除している』ということだってある」とムヒカさんが言っているように、誰だって挫折を繰り返しているし、大きな話と細かい話を混在させてやりくりしながら生きている。
 ムヒカさんの言葉に後押しされて、いろんなことに落ち込んでも、これまでやってきたように「人生一度切り」と唱えては気を取り直すつもりでいる。