体外離脱中の交信

私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳

体外離脱体験と、あちらにいる弟さんとの交信が一緒に起きた、貴重な報告が載っていました。

P257
 サンフランシスコのベイエリアで育ったクリスには、七歳離れた弟のデヴィッドがいた。・・・兄弟がいっしょのときは冗談が飛びかい、「わが家の底抜けコンビ」だったという。・・・
 ・・・
 デヴィッドは家族の腕に抱かれて息を引きとった。・・・
 それから二か月ほどたったある夜、クリスはふと眠りから覚めた。まだ深夜だ。ベッドからおりて、部屋の反対側にあるドレッサーのほうに歩いていった。身体を伸ばし、振りかえったとき、信じられないものが目に飛びこんだ。
「電気が走ったような衝撃でした。だって自分がベッドにまだいて、眠っているんです。まちがいなく自分です。一瞬、自分が死んでしまったのかと思いました。死んだ直後はこうなるのかと驚きで息もできず、どういうことかと頭が混乱するばかりでした」
 そのとき、電話が鳴った。
「どうしてだか、受話器を取って『もしもし』と応じたんです。電話の相手はデヴィッドでした。声ですぐわかりました。びっくりすると同時に、喜びが押しよせてました」だが弟とは長くは話せなかった。「あまり時間がないけど、自分は大丈夫だと知らせたかった。家族のみんなによろしく。そう言って電話は切れました」
「そのあと、何か強い力に吸いこまれそうになりました」クリスはその感覚を長い擬音で表現した。「引きずられ、放りだされるようにベッドに戻り、自分の身体に入ったんです」クリスは悲鳴をあげて目を覚ました。隣で寝ていた妻のソニアが、狂乱するクリスを起こしたのだ。
「強烈な体験で、全身汗びっしょりでぶるぶる震え、心臓は競走馬みたいに脈打っていました」
 ・・・「デヴィッドが無事を知らせようと、死の世界から話しかけてくれたんだ―直後はそんな気がしてならなかった。いっぽうで理性的な自分が、そんなバカな話があるかと否定します。けれども合理的な説明なんてできない。それほど鮮明な体験だったんです」