横尾忠則さんの自伝も、いろんなことが盛りだくさんで、すごく面白かったです。
ジョンレノンやオノヨーコさんなどが出てくるかと思えば、宇宙人も・・・こちらはパリに滞在中、自分が着物になってしまったという話です。
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サクレクール寺院が見えるホテルの部屋でぼくは昼食のことを考えながらボヤーッと外をベッドに俯せになったまま眺めていた。すると突然ベッドカバーが畳に変わった。他のものはすべてそのままで窓の外にはサクレクール寺院の塔が見えていた。突然ぼくは人間の姿ではなく着物になってしまった。茶色の縞柄の男物の着物できれいにたたんだまま畳の上に置かれていた。そしてそれが自分自身であることも知覚できた。着物であるぼくの視線にはパースペクティブになった畳の目が遠くまで走っているのが入った。
次の瞬間誰かがひょいと着物であるぼくを持ち上げて、袖に手を通した。ぼくは誰だか知らない男の背中から、その男を抱く格好になった。それもその男がぼくの袖に通した腕で前を揃えようとしたからである。その時ぼくはこの男に着られて初めて彼の体温をぼく自身が感じとったということに何んとも不思議な感情が湧いた。使用しないまま放置された物にも人が手を差し出せば、物は反応するということを、自分が着物になって悟らされたような気がしたものだった。このような白日の幻想は子供の頃にも体験しているが大人になってからも時々起こることがある。