ミッツ・マングローブさん

うらやましい人生

ミッツ・マングローブさんの「うらやましい人生」を読みました。
ここにある「途方に暮れた感」みたいなもの、ってわかりやすい表現だなと思いました。

P30
 こんな女装なんかしといて、何言ってんだと思うかもしれないけど、子供の頃からずっと私の中にあるのは、「普通でありたい」ってことなの。別に男が好きだったり、女装が好きだったりすることを否定しているわけではなく、もっと日常的で基本的な部分においての願望というか……。
「普通でありたい」なんて殊勝なものではなく、むしろ「なんで普通でいられないんだろう」と言った方が的確かもしれない。だからと言って、「私は非凡だ」などと自惚れているわけでもないのよ。ただ漠然とした「途方に暮れた感」みたいなものを根底に抱えながら、ずっと生きている気はする。

P41
 他にも現在進行形で、みんなが普通にできて私にはできないことのひとつに、「軽いノリのコミュニケーション」というのがある。たとえばメールなんかで「おは!」とか「サンキュー」とか、何の迷いもなく言えちゃう人っているでしょ?すれ違い様にサラッと当たり障りのない会話ができる人とか。ああいうの、私は本気ですごいと思うの。・・・たわいもない世間話をしたり、そういうことがとにかくできない。なんかじんわり重くて、やたら文字数の多い真剣な話になっちゃう。無責任に「いいね!」ボタンを押せない人なんだよね。・・・気心の知れた人とでも、そんな5分かそこらで完結できる会話力が、私にはないんだよね。愛想悪いと思われているんだろうな……と思いつつも、いつもひとりでタバコを吸いに行ったり、隅っこで化粧を直したりしてやり過ごしてる。
 その感覚はロンドンで暮らしていた頃も同じようにあった。英語だと特に「軽い挨拶」や「体調や天気」とかの話題をサラッと出して、その場をしのぐコミュニケーションが大事でしょ?プラス「オカマ的なノリ」を期待されたりする空気もあったりして。
「オカマがみんなパーティーピーポーだと思うなよ!」とうんざりしながら、それでもちょっとは努力してみるの。・・・「ワオ!今日もセクシーね、ダーリン」などと「ひと騒ぎ」した後にポーズを決めて「チャーオ」って立ち去るような。正直、私の中にもそういうステレオタイプなイメージがあったし。「オカマたるもの」と頑張ってみたけど、やはり無理だった。