風がふく前に

こころに響いた、あのひと言

「まず翼を広げること」というこのエッセイ、大事だなと思いました。
ここまで大層なことじゃなくても、翼を広げて、いつでも準備OKですよ〜って状態でいると、すごい早さで実現します(^^)
あと、こんな大胆なことをする人だって「恐怖に打ち勝って」行動を起こしたんだ、誰だって怖いんだ、というのもポイントかなと思いました。

ジャーナリストの堤未果さんのお話です。
P69
 あのとき私は国連本部でのインターンを終える直前だった。職員の募集は不定期で、例え条件を満たしていても空きが出るまで待たされる。NYでも募集は当分ない、更に一〇年のキャリアと博士号が求められると言って冷たくあしらわれて落ちこんだ私が相談したのが、ニューヨーカーのアンだった。
「そんなの全然問題ないわよ」。カフェラテの氷をかみ砕きながら、彼女はこともなげに言った。「募集してないならこっちから売りこめばいいでしょ」
 売りこむ?お役所仕事の国連に?すると彼女ははっきりと言った。「ねえミカ、あなた国境を超えたメッセージを伝えたいって言ってなかった?」「イエス」「だったらぐずぐず気後れしてないで、翼を広げなさい。なりたいものになるのよ」。そして彼女は話してくれた。メディア業界でも有名な狭き門、大手テレビ局で人気の職を得たいきさつについて。
「希望者の殆どは私よりも学歴やキャリアがずっと上で、正攻法でいったら勝ち目がないってわかってたの。だから自分は彼らより優秀だと思いこむ所から始めたわ。そんなとき局のプロデューサーが助手を解雇するという内部情報を聞いたから、朝七時に出勤途中の彼を捕まえて言ったの。「近頃は優秀な人材探しも一苦労、実はいいのがいるんですがね」って。彼、目を輝かせたわ。で、現れたのが私だったって訳」。その後昇格し名プロデューサーになったアンのこのエピソードは局内で有名になった。
 大切なのは決断する勇気だ、と彼女は言う。無理だろうという恐怖に打ち勝ち、必ずそうなると決めるのだと。翌朝私は国連婦人開発基金の番号を二〇回もダイヤルし、時間がないと嫌がる広報部長に五分間だけという約束で無理やりアポイントを取りつけた。私はダウンタウンのコピー屋で事前に名刺を作っておいた。肩書きはその広報部の調査員。すると不思議にその仕事の適材は自分だという自信が湧き、歩き方も自然と堂々としてきた。アメリカ人は目標にかける情熱とコミットメントの深さを評価する。彼女は名刺を見て大笑いし、私の熱意は高く買われて名刺通りに採用された。その後ジャーナリストに転向したときも私はアンの言葉を実践した。まず翼を広げること、南風はそれからやってくる。取材で米軍のリクルートセンターを訪れたときはぎょっとした。壁の勧誘ポスターには踊るような文字でこう書かれていたのだ。「Be what you want!(なりたいものになれ)」