こちらは刀匠の河内國平さんとのお話です。
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河内 ・・・今「無」だとか、なんか難しい言葉使うたけれどもな、僕はそんなの使うたことないねん。使うたことないというのは、そういう言葉を使うとえらい難しい話になんねん。
堂本 うーん。
河内 僕、大阪弁で非常にいい言葉があるなと思うのは、「あほになる」ちゅうことや。
堂本 「あほになる」。
河内 こんな楽なことないで。
堂本 アハハハ、そうですね。
河内 ほんまに。それはね、結局は「無」なんや。
堂本 あ、結局は「無」だと?
河内 と思うで。そやけど、その言葉、僕は使いたくない。難しいわ、「無」なんて。誰でも難しいて。違うなあ、あほになんねん。これ「ばか」ちゃうで。大阪弁の「あほ」というのは、いい言葉や。
堂本 はい。いい言葉ですよね。
河内 「あ」いうたら、平仮名の「あ」は「安」という字からできていて、「ほ」は「保」やんか。だから、「安心を保つ」みたいなもんや、あほというのは。日々の生活の中で、ときどきパッとあほになれたら、ものすごく暮らしやすいで。
堂本 なるほど。パッと、ときには「あほ」になって。
河内 難しいこと考えたらあかん。簡単な例を言うたらな、朝起きるときから、それやねん。「ああ、眠たいな、寝てたいな起きならんか」と思わんとくねん。「あほ」になって、なんにも考えやんとふっと起きんねん。楽やで。
堂本 アハハハ。
河内 ええ言葉や。たとえば、漢字で「あ」という字は、「阿」を書く人もおるわ。「阿吽」の「阿」。一番初めの「阿」や。あれでもええねんけどな。僕はね、「阿保」というのは、「阿を保つ」「最初を大切にする」こと。物事をすることのその始まりだろうと思うねん。
堂本 あほになる、ですね。
河内 それ重ねてみ。ものすごい人生過ごしやすいと思う。気が楽になると思う。