たしかにそうだなーと思いました。
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たとえば、ぼくが、「三十代前半 男性 独身 年収五百万円 メーカー勤務」というカテゴリーに属する人間であるとする。そんなぼくに連日、おススメ・メールが届く。
あなたにぴったりの雑誌はこれ!
『男が冴える!30歳からの「できる人」マガジンTOKYO G』・・・「個性派三十代男子になる10の方法」「三十代男子 やらなきゃやばい 肉体改造術」
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正直なところ、ぼくはこういう広告や案内文を見るたびに、声を大にして言いたくなる。
「三十代前半 男性 独身 年収五百万円 メーカー勤務」である前に、「ぼくは一人の人間です!」と。
たしかに、こうしたカテゴリーは指標にはなりうる。だが、指標は指標にしかすぎず、絶対ではない。もちろん例外はいっぱいあるし、なければいけない。
だが、実際には、どうも例外を排除して、画一化、均一化への流れが強まっているような気がしてならない。
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本来、仮に読者ターゲットというものを設定するとすれば、これしかないと思う。
読者ターゲット:老若男女みな
そういう思いから、ミシマ社では読者対象は設定していない。マーケティングのやり方を否定するわけではないが、あまりにもそれ一辺倒になっている現況で失われていっているものを、少しでも掬いたいと思っている。
本質的に面白いものは、世代や性別や時代を超える。
愚直なまでに、そう信じたいのだ。
それはいってみれば、人間を信じるということである。
人間である以上、生き物である以上、本質的に「面白いもの」は、人間の奥底に眠る動物的感覚を必ず揺さぶるはずだ。
だからこそ、初めて絵本を出すことになったとき、その帯には、この一文を入れることに迷いはなかった。
「読者対象 0歳〜100歳」
『はやくはやくっていわないで』という絵本は、まさに老若男女、世界中すべての人々に共感してもらえる素晴らしい作品だと直感的に思った。・・・とにかく、この本質的に素晴らしいメッセージを一人でも多くの人たちに届けたいという一心で絵本づくりに挑んだ。・・・
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読者の方からも、「読者対象0歳〜100歳、まさにそうだと思いました」といったおはがきをもらうことも少なくなく、ちゃんと想いは通じるのだということをあらためて実感できた。