偶然の装丁家

偶然の装丁家 (就職しないで生きるには)

矢萩多聞さんの「偶然の装丁家」を読みました。
「晴れたら空に骨まいて」に、矢萩多聞さんのお話が載っていて、ユニークな方だなと興味を持って。
期待通り、読んでよかったです♪
まずこの本がどんな内容か「はじめに」から引用します。

P12
 ぼくが小学生だったころから、世のなかで「個性」という言葉がもてはやされはじめました。「自分らしく」「個性をのばす」「世界にひとつだけの花」とかそういったフレーズをよく聞くようになりました。
 ぼくは個性や才能というものを信じていません。自分がつくり出してきたものに、はたして独自のものなんてあるのだろうか。むしろ人さまの影響をたくさん受けています。その時どきに出会った人たち、物事の流れのなかで、おぼろげに自分のカタチが浮かびあがる、そちらのほうが自然じゃないかなぁ、と思うのです。
 子どものころから「伝えたいものは何か」「なりたいものは何か」と問いつづけられることは結構しんどいことです。それよりも、いま自分の暮らす場所、出会った人のあいだで、なんとなく自分が必要とされ、自分の輪郭が見えてくる。そのほうが居心地のよい社会のような気がします。
「就職しないで生きるには」というこの本の依頼があったとき、どうするかとても迷いました。最初はお断りすることも考えましたが、ちょうど不登校児やその親、就職活動中の学生たちに会う機会が重なって、ちょっと書いてみようと思うようになりました。彼らは自分らしく生きるために、自分で自分自身を生きづらくしているように見えたのです。
 この本には、就職しないで生きるために、いかに個性的に、強いメッセージを持ちつづけていくか、という話は書いてありません。
 人と人との出会い、ささやかな言葉や体験が、つねに自分を変化させつづけ、いまの仕事につなぎとめてくれている。
 学校に行かなかった、インドで暮らした、本をつくっている、というのは多くの人たちにとって、特別で個性的な人生に映るかもしれないけれど、それらは単にいまの状況をつくり出すジクソーパズルの一ピースでしかないのです。
 ぼくは、就職してもしなくても、どんな仕事をしていても、目の前の仕事を真剣に楽しみ、ほがらかに生きていく方法は無限にあると信じています。