写真家のジルさんとの会話、素敵な話だなと思いました。
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・・・友人の一人にウォールストリートで働く、まさに金融界でのし上がろうとしているアメリカ人の男性がいた。
「ユミコ、"ride the wave"って知っているか?」
と、聞いてきた。
「人はみな、人生という波に乗っている。その波はどんどん高くなり、そしてある時点から下がっていく。
問題なのは、普通の人たちは、自分の波が、いまどうなっているのか分かっていないことだ。波が高くなっていく途中なのか、いまがピークなのか、把握していない。
そして、うまくいっているときには、この高い波はずっと続くんだと考える。高い波は長くは続かない、なんて思いもよらないんだ。
そして気が付いたときには、その波はどんどん下がっている。もう一度高い波に乗るには、また一から乗りなおさなくてないけない。
でも、僕ら成功する人間は違う。波の一番高いところで、次の波にぽんと飛び移るんだ。その必要性が分かっているし、それだけの実力がある。そうしていくつもの波を渡り歩き、永遠に高いところにいるのさ」
それを聞いたときに、は〜、さすが生き馬の目を抜くNY、勝ち組ってそんなこと考えてるんだ、と思った。
その話を、ジルにした。
私は得意げに、さすがウォールストリートだと思わない?ジルも、有名人のレコードジャケットを撮り続けて波に乗り続けたらいいのに、と。
するとジルは、めちゃくちゃに優しい笑顔を浮かべて、こう言った。
「ユミコの言ってることはわかる。でもね、波の高いところから落ちるとき、落ちきってしまったとき、そのときどきの景色を味わえるというのは、人生にとって面白く、まったく幸せなことだ。
仮にそれが苦しみであったり、焦りであったりしたとしても、高いところの景色ばかりを、落ちないように落ちないように気をつけながら見るよりも、楽しそうだと思わないか?
いいときにはいいときの、悪いときには悪いときの景色を味わえばいいのさ。
私なら、落ちていく波に乗る方を選ぶね」