分け合って生きていけばいい

EARTH GYPSY(あーす・じぷしー)

こんな人が実在するとは…びっくりでした。
著者が出会った「けんちゃん」のお話です。

P24
けんちゃんは実家暮らしだったこともあり、恵比寿の一人暮らしの私のアパートにちょくちょくやってきた。そして気が付いたことは、彼の価値観は、私と、いや世間と、イイ意味でかなりズレているということだ。

まず、あまり“自分のもの”という概念がなかった。だから何でも人とシェアして分け合ってしまう。自分のバイト代さえも。

けんちゃんが短期のバイトで1週間ほどみっちり働いた時だ。けんちゃんはその時とてもお金がなくて、普通なら電車で行くような距離を、電車代を浮かせるべく私のミニチャリで通勤していた。お給料日になると、手渡しだったらしく10万前後入った茶色い封筒を嬉しそうに見せてくれた。

「まほ!みてや!結構もらったで。なかなかしんどかったわー」
けんちゃんはごそごそと封筒の中身を確認すると、「ほな、半分こ!」と、目の前でお札を綺麗に半分に分けて私に渡した。

私はよく状況がわからなくて、目が点になった。
「え!?なんで!?けんちゃんが働いたお金やし、もらえんよ!」
けんちゃんもきょとんとした顔をしている。
「もらっときもらっときー!まほもお金ないんやし、おんなじやんか」

といってにかっと笑った。

他にも、携帯電話に知らない同じ番号からやたら着信があるときがあった。
気になって聞いてみると、

「あー!この人な、タイであったおっさんなんよ。このおっさん怪しくてな〜、もうジイさんなんやけどな。タイで泊まろうとしてた安宿で、オーナーともめとったんよ。おっさん長期滞在してたみたいなんやけど、お金払えんくなって追い出されそうになっとったんよ〜。あははあほやろ〜!」

けんちゃんはその怪しいおっさんが宿から追い出されるのを見かねて、結局宿代を全部肩代わりしてあげたのだった。そして当の本人は安宿に泊まるお金もなくなってしまい、野宿して過ごすことになったらしい。

「宿なくてさ、キャンプ道具も持ってなかったけん、寝れる場所ひたすら探すんよ。公園とかマックとか。夜のタイの街を歩き回ってさ」

「ほんとな、人間眠りたいときに安全な寝床がないって、これほど辛いことはないで〜。これは体験せな分からん」

と言いつつも、いつも笑っていた。
結局その怪しいおっさんは実は倒産してしまった大きな会社の社長さんで、そのあと日本に帰ってきてきちんとお礼がしたいと言う電話だった。
なんてミラクル!!

「まほ、お金もごはんも物もな、分け合ったら本当は貧乏な人とかお腹が空いた人とかおらんくなるはずなんやで。人は分け合って生きていけばいいんや」