益田ミリさんのエッセイ、読んでいると気づかないうちにその世界に入っていて、でもどっぷりという訳じゃなく、浅瀬な感じなのですが、他の本にない感覚があるなーと思います。
P60
テレビ版『ウルトラセブン』が渋谷の映画館で上映されているというので観に行ってみた。
わたしよりちょっと上の世代の男性陣が今か今かという表情でロビーに立っているのが新鮮だった。
テレビ版『ウルトラセブン』は1967年~1968年に放映されていたので、わたしが生まれる以前である。その後、再放送もあったのだろうが、ほとんど記憶にない。
しかし映画館で当時の主題歌が流れると、
「懐かしい!知っている!」
胸が高鳴った。
希望に溢れるメロディと、合間にヴォルルン、ヴォルルンと響くホルンの調べ。世界は広いのだゾ、と明示する力強さがあった。ふいに『アルプスの少女ハイジ』の主題歌が思い出された。あの美しいヨーデルのコーラスもまた、子供たちに世界の広さを伝えていたのではなかったか。
映画館では、テレビ版『ウルトラセブン』の3話分が上映された。子供用という感覚では作られておらず、星新一のSF小説のようなもやもやとした怖さや、人間のこっけいさ、嘘や偽善、空しさとともに正義が描かれていた。
「第四惑星の悪夢」の中で、しびれるセリフがあった。
ふたりの隊員を乗せた宇宙船が予定外の惑星に飛んでっちゃうという物語なのだが、乗っていた隊員は目的地に着くまで自動的に眠りについている。だから、それを知らせることはできない。大事件である。そのわりに地上の作戦室は冷静で、女性隊員は悲しげにこうつぶやくだけである。
「今ごろ夢を見ているわ」
映画館の暗がりの中でわたしは思わず息をのんだ。ここでこんなセリフを言わせるとは!素敵すぎだよ『ウルトラセブン』。
挿入歌がクラシック音楽だったり、宇宙人とウルトラマンがちゃぶ台で語り合ったり、なんかもう、めちゃくちゃかっこよかった。いろんなものを観てみるものだなぁと映画館をあとにしたのだった。
P183
野菜おまかせセットを注文したのだった。
季節の野菜が何品か入っているらしい。
ダンボール箱が届いた。じゃがいもがいくつか入っていた。すごく小さかった。むいたらもっと小さくなるだろう。
ミニトマトも入っていた。すごく小さかった。ミニトマトなので小さくても問題なかった。
空芯菜なるものもあった。スーパーの野菜売り場でわたしが手に取ることがない野菜である。プロが使う野菜だと素通りしていた。
しかし、おまかせセットに空芯菜は入っていた。おまかせは攻めていた。それでレシピ検索をしてオイスターソース炒めを作ることにした。
まな板の上で空芯菜の茎を切って感心する。
本当に空洞だ!
「サッと炒めて」という説明どおりにサッと炒めて皿に盛る。食べると空芯の部分がまだ硬かった。「サッと」がサッとすぎた。よく噛んで食べた。
おまかせセットにはモロヘイヤも入っていた。自分でどうこうしようと思ったことがない野菜パート2。やはり攻めている。なぜ普通にキャベツや小松菜ではないのか。
モロヘイヤチヂミを作ってみることにした。レシピ写真がおいしそうだったからだ。
ボウルに卵、小麦粉、片栗粉、チーズ、水、そしてきざんだモロヘイヤを入れてかき混ぜ、フライパンで焼いた。
しょうゆとごま油のタレで食べてみた。おいしかった。めちゃくちゃおいしかった。モロヘイヤの味はしなかった。クセがないとはこういうことなのだろう。自分の消し方がハンパない。
モロヘイヤに関してわたしが唯一知っている情報は、事実かどうかは知らないが「クレオパトラが食べていた」である。
そういえば、クレオパトラのヘアスタイル。塩野七生さんの『ローマ人の物語』に、あのオカッパについて書かれていた箇所があったんだよなぁ。
本棚をごそごそやって発見する。
「クレオパトラ自身も、エジプト古来の祭祀には例のオカッパ・スタイルで臨んだが、いつもはギリシア式の髪型で衣服も西欧風だった。」
(『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後 下』新潮文庫より)
クレオパトラはいつもオカッパではなかったようだ。モロヘイヤチヂミを食べながら古代エジプトに思いを馳せる。野菜おまかせセットは、案外楽しかった。
