社会を変える学校、学校を変える社会

社会を変える学校、学校を変える社会

 大事だなーと思うお話ばかりでした。

 

P19

植松 麴町中では、多くの学校では当たり前にされている、先生が生徒にやたらと「勉強をしなさい」とか、そういうこともあえて言わなかったんですよね。

 

工藤 はい。子どもは主体的な存在ですから、本当は誰かに言われなくても、自分自身が興味があることや、やると決めたことには取り組むんですよね。でも、中学1年生段階ですでに主体性を失ってしまっている子どもたちにはそれを取り戻すための「リハビリ」から始めないといけないことがあります。

 特徴的な一例を挙げると、数学の授業でほとんどの生徒たちはタブレットのAI型教材で自由に自分のペースで学ぶ形を取っていたのですが、中学1年生ぐらいだと全く勉強する気がない子どもたちが何人もいるんです。

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 ・・・たった一人だけいつまで経っても、やらない子がいたんです。・・・しかし、7カ月が過ぎた頃のある日、ついにその子がやる気になったんです。人が変わったように猛烈なスピードでタブレットでの学びに取り組み始めたんです。結局、その子はたった1カ月半程度で1年分の内容を終えてしまいました。・・・

 長い時間がかかりましたが、この子の忘れていた「学びたい気持ち」を復活させるのに、約7カ月という時間が必要だったのだと思います。後から調べて分かりましたが、こうした「教えない授業」によって、数学は学習指導要領が定める標準的な時間よりも短い時間で全員が学ぶ内容を終えて、しかも、点数はそれまでより良かったのです。

 特に興味深かったのは、「先生が教える授業」では、「先生の教え方が悪い」と文句ばかり言う子どもたちが、「教えない授業」をすると、自らの意思で先生に質問して、「先生ありがとう」と感謝するようになったことです。自律することこそが、学びの基本だと改めて思いました。

 

P26

植松 ・・・なぜ大卒や大学院修了の人たちではなく、高卒人材を採るのかというと、僕が大卒理系を採らないと決めているからです。その理由は、僕は大卒理系にあまり魅力を感じないからです。

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 ・・・彼らの多くは失敗を避けようとして、習った知識の範囲から出ようとしないことがあるからです。・・・

 ところが、高卒文系の子たちは、どんなことでも「どうやればいいんですか?」と聞いてきます。そしてトライして失敗します。でも、失敗から多くを学んでくれて、やがては「できなかったこと」が「できた」になっていくんです。その時の彼らの顔は輝いています。その笑顔を見ると、僕も幸せになるんです。

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 時々、「なぜ、そんなことができるようになる社員が多いの?」と聞かれることがあるのですが、僕は、その答えは、「放置しているから」だと思っています。ほったらかしておいても、周りの社員と連携して、できるようになってくんですよね。そんな僕の会社が気を付けていることが五つあるんです。それは、

 

①部と課と役職がない

②ノーペナルティ

ベーシックインカム

④目標稼働率は30%

⑤やりたいことをやろう

 

です。

 僕は、会社と社会は相似形で、会社は社会を映すものだと思っています。もしかすると僕はこの会社で、僕が希望する社会の実験をしているのかもしれません。僕は会社の仲間に幸せになってほしくて、自分が幸せになるためには、周りのみんなも幸せにならなければいけないことを理解してほしいとも思っています。

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 ・・・日本のさまざまな会社は今「社内に使える人がいない」と言って、とても苦しんでいます。・・・会社で人材育成がうまくいっていない理由は、現在の日本の受験の仕組みが関係しているのではないかと思っています。・・・

 これを変えるためには、まず「大学に行けば何とかなる」「大学に行かないと就職先がない」という常識を打ち破ることが効果的なように思います。

 ・・・もちろん、大学は「学びたいこと」や「自ら学ぶ意欲」がある人にとっては素晴らしく能力を高めてくれる環境だと思っています。でも、学歴という他者評価のためだけに行くには時間とお金がもったいないです。

 そこで、こうしたシステムを変えるためには企業が採用条件から「学歴」を外せばいいと考えています。外すだけですから、学歴があってもなくてもかまいません。・・・

 

P35

植松 ・・・残念ながら今の日本では、「違う」は「おかしい」と言われます。・・・

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 でも、人口が減っている今では、・・・言われたことを言われた通りにやる仕事はどんどん自動化されています。残念ながら、人口増加期の「成功の秘訣」は、ほぼ全てが「負ける秘訣」になってしまっています。これからは、新しい仕事や価値を生み出す仕事をしないと、かなり厳しいです。

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 大人は、自分が経験した進路指導が古くなっているという可能性を自覚すべきです。20年前の常識で行動している人が多いです。大人こそ、積極的に現実の社会を見て、常識や教育をアップデートする方がいいと思います。