何のために瞑想するか

今を生き抜く絶対不敗の心と体を得るために 「男の瞑想学」

 この辺りも興味深かったです。

 

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前田 TM瞑想をして5年ほどたった頃から、・・・瞑想して体験しているビジョンと、現実がごちゃごちゃになってわからなくなったことがあったんですね。

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 いま目の前に現実の世界、出来事があるように、瞑想しているときにも同じように別の現実が見えてるんです。「あれ、いま瞑想中なのに、なんでこんなに見えてんの?」と驚くんだけど、瞑想から醒めても同じように現実の世界が見えてる。それで、今はどっちにいるのかっていうことが、わからなくなってくるですよ。

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 瞑想中は目をつぶっているんだけど、いろんなところへ行っていろんな人と話をしたりとか。そのときに瞑想中に会った相手から、「きのう来て話をして、急にいなくなったね」とか言われたりして。それで自分はびっくりしたんです。瞑想が進歩したと思って多少いい気になっているうちに、ある日戻れなくなったみたいな感じで、いま自分が現実と瞑想の世界のどっちにいるのかわからなくなったんです。・・・

成瀬 もともと、そういう素質があったんじゃないかな?

前田 ええ、自分は小さな頃から、「自分自身というのは着ぐるみの中にいて、そこから外を見ている」という感覚があって、実は今でも抜けないんですよ、その感覚は。だけどその時(瞑想をしているとき)は、一瞬だけ〝外へ出られた〟という解放感があったんです。・・・けど、調子に乗ってるうちになんだかわけがわからなくなってきて……。

成瀬 ああ、なるほど。

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前田 ・・・あるときは「一週間くらい連絡とれなかったけど、どうしたの?」って言われたりね。・・・

成瀬 本人の主観としてはどうなってたの?

前田 ちゃんと生活してたつもりだったんですけど、「一週間、連絡がとれなかった。どうしたんだ」って会社の人間からも言われて……。いろんな友達からも、「連絡が取れなかったけども、なんかあったんか?」ってね。自分としては、現実に普通に会ってたはずなのに。で、今、こうして話しているのが現実なのか、さっきまでちゃんと生活していたと思っていたのが現実なのか、混乱しちゃって〝これは怖いな〟と。解放感はほんとに心地よかったけど、すごく怖くなって「しばらく瞑想はやめよう」と思ってやらなかったんですよ。

成瀬 またベーシックな集中の練習からやり直せば、そういう嫌な体験もなくなってくるんだけどね。現状認識、現状把握能力はどこまでも高められるんですよね。

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 瞑想にすぐ入れる人と、なかなか入れるようにならない人がいるんだけど、前田さんの場合は、やっぱりもともと瞑想的な体質は持ってるね。さっきの〝着ぐるみの中から世界を見ている〟って子どもの頃から感じてたって言ったけど、そういう感覚自体は小さい頃は誰でも感じているはずなんだよ。だけど、普通は年をとるにつれそういう感覚を忘れてしまう。それを忘れずにいまでも感じているというのは瞑想にとってすごく重要なことなんだよね。

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前田 ・・・その他にも子どもの頃には、今考えると神秘体験だったんだろうなということはありましたね。でも一番は、〝これが自分だ〟っていうことがどうしても信じられないんですよ。今でも着ぐるみに入っているみたいな感覚も含めてね。

成瀬 その感覚は、瞑想能力を高めるのに重要だね。なんでも常識的なことを鵜呑みにするのがよくないんですよ。・・・可能性としては、この壁の向こうが見えてもいい、ということなんです。

 つまり瞑想能力が高まると、常識的な制約から解放されてくるから、どんな非常識と思われるような方向に可能性が広がってもいいわけです。自分の体を上から見たってかまわない。それは、裏返してみれば自分の体を着ぐるみと感じて、内側から見ているのとイコールですよね。

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 常識を鵜呑みにしている人は、「オレの体は、オレそのものだよ」だけだけど、そうは思えないっていう感性の方が、瞑想では重要なんだよね。前田さんは瞑想を学ぶ上で凄く重要な感性を持ってますよ。

 

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前田 なんで瞑想をするといろいろ起こるんでしょうね?

成瀬 通常の状態では、心は波立っているわけです。瞑想をすることによって心を落ち着けるっていうことは、波立っているものを落ち着かせることによって、その奥にあるものが見えるっていうことですよ。海と同じで波が立っていると底が見えないですよね。だけど、凪になると底が見えるわけです。心の状態も同じなんですよ。

 瞑想で波立っている心をフラットにすることによって、奥底が見えてくる。そこに宇宙もあるし、自分の本質も見えてくる。自分のことがわかれば他人のこともわかるだろうし、社会生活をどのように生きていけばいいかもわかるだろうし、人間関係のこともわかる。ということは、日々の生活が楽になって愉しくなる。人生を謳歌できるようになっていくはずなんです。

「何のために瞑想するか」というと、偉大な瞑想の達人になるためじゃなくて、日々の生活が快適になるため、充実した人生を生きるためなんです。瞑想の達人になるために瞑想してもしょうがないよ、そんなものは。