アリについて何も知らなかったです・・・受精卵が必ずメスになる、母だけでオスを産むことができるとか、へぇ~でした。
こちらは生態学の市岡孝朗さん。
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突然ですが、「ハキリアリ」をご存じですか?
読んで字のごとく、彼らは葉を切って、その切った葉を担いで、よたよたと巣まで運びます。自分の体より数倍大きな葉を担ぎ、行列をつくってそれを運んでいく様は圧巻です。
アリにとって、葉を運ぶのは重労働です。しかし仕事はそれだけにとどまらず、ハキリアリたちは、葉を運ぶ前に、運ぶための道を先につくっておきます。行く手を遮る植物や落ち葉などを取り除き、土や石を動かして平坦にならして、巣と葉を刈り取る植物の間の道を整備してから、収穫した葉を運び始めます。
ハキリアリの巣は巨大です。ときには、深さは二メートルを、広さは一〇平方メートルを超えることがあります。
切って運ばれてきた葉は、そのまま餌としてアリに食べられるわけではありません。アリは、この葉にキノコを植えつけて栽培し、育ったキノコを餌としています。
ハキリアリがこなさなければならない仕事は、たくさんあります。・・・ハキリアリは分業して、自分たちの社会を維持しています。・・・
アリの世界において、分業制は何も特別なことではありません。・・・アリはとても高度な社会を形成して生きています。
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アリの社会は、専門的には「真社会性」と呼ばれます。真社会性とは、
・二世代以上の親子が同居する
・複数の血縁者が共同で育児をする
・繁殖を分業する(不妊ワーカーの出現)
という高度な「利他性」を発達させた群れの性質を意味します。
ミツバチ、アリ、シロアリなどは、真社会性を進化させた「社会性昆虫」に位置づけられています。・・・
余談ですが、シロアリは、ゴキブリの仲間から枝分かれした一グループです。すべての種が社会性を持つことから「社会性ゴキブリ」ということができます。「アリ」とつく名前でありながら、実際はゴキブリの仲間ですので、混同しないでください。
ここで、「社会性」という概念がどのようなものなのかという点について、触れておきたいと思います。
高度な社会性というのは、高度に発達した「利他性」であると言い換えることができます。利他性とは、自分は損をしても、他の個体を助ける性質のことをいいます。
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アリの巣の中には、いったいどんな社会があるのでしょうか。
みなさんも、アリ社会には「女王アリ」や「働きアリ」が存在することは、よくご存じだと思います。・・・
・・・女王アリが外に出て餌を集めることはめったにありませんが、女王アリもしっかりと働いています。次から次へと卵を産むという「働き」です。
女王アリとは、アリ社会において「繁殖」の役割を担っているアリです。アリ社会では、卵を産むことも分業された一つの「役割」であり、メスであってもその役割になければ卵を産みません。
働きアリと呼ばれるアリたちは、実はすべてメスです。基本的には不妊となっているメスアリのことを働きアリと呼んでいるといってもよいでしょう。子孫を残す仕事は巣にいる女王アリに任せて、彼女たち働きアリは、卵の世話をしたり、育児をしたり、掃除をしたり、外へ出かけて餌を見つけてきたりと、別の役割をこなします。
一方、オスのアリはふだんはほとんど見かけません。繁殖期になり、女王アリが卵を産むために精子を必要としたときに、コロニーはオスを育て始めます。
多くの生物では、オス(父)とメス(母)の間に子が生まれ、子の中にオス(息子)とメス(娘)の両方が含まれます。
ところが、アリやハチの仲間は、ちょっと事情が違います。
アリやハチは、父と母がそろっているとき、ほぼ必ず「メス」が生まれます。つまり、受精卵は必ずメスになります。
そして、受精しなかった未受精卵は、必ず「オス」になります。アリやハチは、母だけでオスを産むことができます。アリやハチのオスに父親はいません。ごくわずか例外もありますが、基本的には、アリやハチは受精の有無によって、卵の性別が分かれます。