相手の趣味や個性に合わせて

いのっちの手紙 (単行本)

 斎藤環さんが書かれているところから・・・一見優しいまっとうなアドバイスは息苦しい、・・・ほんとにそうだな、気をつけようと思いました。

 

P39

 僕が理解し得たところでは、恭平さんは・・・話は全部聞こうとはしない。むしろ途中で遮って、思考の堂々巡りを止めようとする。そんなふうに思えます。恭平さんのテクニカルな部分は、まずはこの点にあるように思います。普通の治療者はこういう場合、間違った意見でもいったんはひたすら傾聴して、その後で違う見方を提案したりする。でも恭平さんは全部言わせないであえて話の腰を折る。この点がすごく面白い。

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 前回のお手紙で、受容にかかわるいくつもの重要な事実がわかりました。以下、箇条書きにしてみますね。

 

・攻撃的な対応をしてくる人など、一〇年間で六六人をブロックした。

・悪意を感じる相手など、苦手な人はいて、そういう人には苦手であることを伝えている。

・電話が一〇〇件を超えると頭痛がしてくるので終わりにする

・家族との食事や睡眠などは、電話よりも優先する(ことが多い)

・疲れている時は、休養を優先する

・「いまから死ぬ」という〝脅し〟には対応しない

・(奥さんから見て)時々は強い言葉、厳しい言葉を言うこともある

・「仕事で死ぬやつがあるか」と言って笑う

 

 こうした「線引き」は素晴らしいと思います。さっきも言いましたが、僕は「なんでも受容」という考え方にすごく批判的です。・・・

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 臨床家としての僕の第一原則は、「治療よりも自分の健康や生活を優先する」です。・・・僕自身がダウンしてしまったら、そちらの悪影響のほうがずっと大きいと考えるからです。恭平さんも基本的にはそういう発想ですよね。そこが信頼できる。

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 恭平さんの相談は聞きっぱなしにしないし、時にははっきりと指示もしますよね?なんか宿題を出したりとか。あれ、実は結構、盲点でした。「指示的」というと命令やアドバイスを考えがちですが、そういう指示とも違う。恭平さんは、電話で相手の声を聞いていると、相手の強みや長所がわかってくるので、それを活かせるようなアイデアをどんどん提案してますよね。『自分の薬をつくる』の醍醐味もそこにあったと思います。

 治療者の指示やアドバイスって、すごく優しくてまっとうなんですよ。でも、正しすぎて、どこか息苦しい。恭平さんの「~してみたら?」っていう提案は、すごく風通しが良い気がします。あれはたぶん、相手の趣味や個性に合わせたアドバイスだからなんでしょう。治療者のアドバイスって、クライエントの病気や欠点に向けた言葉であることが多いのとは対照的です。欠点に対する適切なアドバイスって、断りにくくて抑圧的なんですよ。どっかで聞いたような言葉でも「せっかく心配して言ってくれてるんだろうから断っちゃ悪い」みたいに考えてしまう。でも、健康な個性や長所に向けたアドバイスなら、見当はずれなら気軽に断れるし、とにかく「ものはためし、やってみよう」という気になりやすい。