現実の世界は幻影

シンクロニシティ 科学と非科学の間に――画期的な科学の歴史書。

 結論だけはなるほどとピンと来たものの・・・あとはなんのことやら・・・でもとても興味深く読んだところです。

 

P382

 一般相対性理論量子力学は、それぞれ1910年代半ばから1920年代半ばにかけての10年の間に誕生している。

 一般相対性理論は、時空を主な舞台とし、その歪みによって光や粒子の進行方向を定める。量子力学は、特にハイゼンベルクの提唱した解釈において、抽象的なヒルベルト空間を中心に展開する。・・・双方の原理を損なうことなく2つの理論の統合を図る試みは、ボーアの主張に端を発する。古典的世界(高速度や強力な重力場などの極限状態においても相対性理論に従う世界)にいる人間が微視的世界に介入する観測という行為の重要性を強く訴えたのがボーアだった。

 しかし、アインシュタインハイゼンベルク、パウリといった巨匠たちが追い求めたのは、微視的世界から人間の日常的な世界、そして宇宙規模の世界までを、単純な原理によって網羅する横断的な理論だった。アインシュタインは、非量子的な手法で(古典的な一般相対性理論を拡張して)、量子力学の原理を説明しようとした。対して、全く異なる方法を独自に考察したのがハイゼンベルクだった。彼は、対照群となるヒルベルト空間のエネルギー場に適当な条件を与えることで、自然界の様々な相互作用の再現を目指した。

 アインシュタインの理論では、宇宙は時空という1つの実体である。ただし、任意の点において光円錐の描写が可能で、2点間の結びつきに因果律を伴う。また、少なくとも局所的に、光速を超える作用の伝播が禁じられる(時空連続体が歪曲し別々の領域をつなぐワームホールなどの場合に限って、非局所的に超光速が許される)。かくして、因果律が実世界の構成原理として組み込まれるのだ。

 一方、ハイゼンベルクとパウリの理論では、まず、ヒルベルト空間のエネルギー場を介した共時性を伴う相関が想定される。ただし、ハイゼンベルクユングの信奉者ではないことからもわかる通り、集合的無意識に通じるシンクロニシティとは明らかに異なる概念だ。とはいっても、プラトンの唱えたイデアの世界を彷彿させる、一種の普遍的原理のようなものではある。そのため、超光速で伝わる相互作用を強く制限することで、因果律という原理を新たに組み込む必要があった。・・・

 2人の理論が他と決定的に異なる点は、物質やエネルギー、相互作用のすべてが、普遍的なフェルミオン場から特定の条件のもと、いちどきに現れると考えたことだった。電子や陽子、ニュートリノなどの粒子は、それぞれが存在を約束されているわけではなく、普遍的な場が特定の条件を備えた時にのみ表出し、存在し得る。また、電磁気力などの相互作用は、粒子同士を結ぶ相関の確率の高さに応じて発生する。したがって光は、粒子間の相互作用が織りなす幻影に過ぎない。そして、その出現する時間差が、人間が光速として知る速さの要する時間とほぼ一致するわけである。「ネーターの定理」(271頁)を適用すれば、普遍的な場が備える対称性によって、既知の保存則をすべて説明できる。パリティ対称性の破れについても、特殊な例として説明が可能だ。つまりは、2人の考察によれば、「現実の世界」は究極の幻影ということになる。