今107歳になられたそうで、これだけ気持ちをお元気にいられるって、素晴らしいなと驚きました。
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再婚した夫が壮絶な末期がんで他界してから、わたくしは恵比寿のマンションでずっと一人暮らし。最後まで一人で暮らせるようにリフォームもしていました。
ところが、100歳で「ベストドレッサー賞特別賞」をいただいた翌日、くたびれてクタクタだったところへのお客様。そのお帰りを見送り、後片付けに立った途端、ステンと転んじゃったの。「イタイ!」と立ち上がろうとしたら、今度は腕をついて、大腿骨と手首を同時骨折。あまりの痛さに意識も遠のいて……。
それから22時間そのまま。幸い、翌日、取材に訪れる方との約束があり、異変に気付いて、なんとか鍵をあけて発見してくださったので、文字通り一命をとりとめました。手術は成功。ところが、その入院中にご丁寧にも、ベッドのふちからずり落ちて、今度は反対側の大腿骨を骨折。なんのかんので三ヵ月入院。
ついに車椅子のご厄介になることになり、親族が集まっての教義の結果、一人暮らしをあきらめ、ケアつきのホームにお世話になることになったのです。
ここに連れてこられた時は、へえ、いよいよ姥捨て山か、って思いましたけれど、これがなかなか快適で、朝6時に起床、洋服を着せてくれて、10時には朝のお茶、12時に昼食、15時にはお茶とお菓子、17時半に夕食。
週に二度はお風呂。裸で座っていれば頭からしっぽまで丁寧に洗ってくれて、きれいに拭いてくれて、また着せてくれて。お洗濯もおそうじも、何から何までやってくれて、まさにお姫様生活ですね。
他の方々は三食とも食堂でとられていますが、わたくしはひとり気ままに自分の部屋でいただきます。
夕食には赤のワインを100㏄(以前は170㏄でした)。でも17時半じゃまだ明るくて気分が出ない。みなさん19時半にはお休みなので20時ごろにはシーン。それから、部屋のスタンド一つで原稿書いたり、新聞や本を読んだり。
でも近ごろ目が悪くなって、原稿用紙のマス目に字がおさまらなくなりました。
こんなに早く目が悪くなるなんて、それが一番辛いですね。
「シニアメゾン鎌倉山」は、常日頃わたくしの面倒を見てくれている二人の姪が中心になり、わたくしが骨折で入院している間に探してくれたケアホームです。規則正しい生活は、実に健康的。
スタッフはみなさん、明るく元気で、大事に大事にしてくださって。とにかく、わたくしにとっては過保護ですから、快適なような、不便なような……。
病院から退院すると同時にまっすぐここに来てみたら、1階のお庭に面した個室は、小さいながらなんでもそろっていて、新婚家庭のお部屋みたい。
これでハンサムな新郎でも待っていてくれたら申し分なかったのですが……。
でもなんだか物足りない。で、最初に全身が映る鏡を買いました。
誰に見られてもいいように、いつも身だしなみには気を付けなければ。
壁には、家にあった大好きなゴッホの「ひまわり」の絵にきれいな紫色のスカーフなどをあしらって……。何しろ、この次はお墓に行くのですから、ここにいる間は気持ちよく、美しく、楽しく暮らしたいじゃありませんか。
シニアメゾンでの生活に特に不満はないのですが、あるとすれば食べるものでしょうか。わたくしは、一人暮らしの時は、いつも好きなものを自分でお料理して食べていましたから、それができないのが一番辛いですね。
好きなものは、お肉に揚げ物。ワインにチーズ。鰻もいいですねえ。
お豆腐やお野菜中心のお食事は、食べた気がしません。
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そこで、部屋では、誰かお客様や手伝いの人が運んできてくれたハムやチャーシュー、焼き鳥にから揚げ、ローストビーフなんかでワインを1杯。
朝は、冷凍庫からクロワッサンを出してレンジで温め、コーヒー。これは長年の習慣です。野菜が足りないかしら?
でも、血圧に良いだとか、ぼけないだとか、能書き付で食べても美味しくありませんからね。
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とにかくいつも好奇心。何かに心を向けてときめいていたいですね。
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102歳で豪華客船の「飛鳥Ⅱ」にお招きいただきました。
横浜から乗って、横浜へ帰るクルーズは、「車椅子でも大丈夫」ということで……。90代でもお元気で乗船される方がたくさんいらっしゃるそうなのです。
このお話には、心からときめきましたね。
着るものはどうしようかしら。ドレスも作りたいし……。
それまでにリハビリを頑張って、車椅子なしで歩けるようになりたいし……。
そこで、昔を思い出してダンスのステップの練習を始めたりして……。
一度は乗ってみたかった夢のクルーズです。
良い人見つけちゃおうかしらと、すっかりその気でいたのですが、結局、残念ながら、またちょっと骨の具合を悪くしてしまい、かないませんでした。
でも、引き続き、現在リハビリ中。治ったらすぐにでも乗る気満々なのです。