NIN_NIN

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

 素敵な発明だな~と思いました。

 

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 視覚に障害のある友人たちとごはんを食べていたとき、衝撃的な話を聞きました。彼らは横断歩道を「勇気と度胸と勘」で渡っている、と言うんです。

 音響ガイダンスが設置されているところもありますが、設置数は多くはありません。夜間になれば「近隣に配慮」して音声は止みます。雨の日は、雨音で車の走行音が聞きとりにくくなる。雪の日は、あらゆる音が雪に吸収されてお手上げです。それでも視覚障害者は文句も言わず、不安いっぱいで横断歩道を渡っている。

 こういうことを「世の中ってそういうものだ」で終わらせていいのかな。これほどテクノロジーが進化した世の中なら、なにか手立てはあるんじゃないか。

 ・・・マイノリティデザインは「近くにいる人が悩んでいる」ことがわかったら、それが始まりの合図です。

 試行錯誤の日々。白杖をハックしようとしたり、メガネ型のデバイスを考えたり……。検証を重ねた結果、「NIN_NIN」という忍者型のロボットが完成しました。

 


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 「NIN_NIN」は、視覚障害者の肩に乗せて使います。「まだ赤信号だよ」とか「タクシー今通るから手挙げて」と、かゆいところに手が届く情報を教えてくれます。

 その指示はAIに依存しているわけではなく、人間に依存しています。

 実は、障害や病気によって寝たきり状態だけれど目は見えて話せるという人が日本には相当数います。そういう人たちが家や病室にいながら、モニター越しに「NIN_NIN」に憑依して、視覚障害者に目をシェアするという仕組みになっているんです。反対に視覚障害者は、寝たきりの人に足をシェアすることができる。寝たきりの人たちは、家にいながらモニター越しに、視覚障害者と一緒に外出している気分になれるからです。

 どちらかがどちらかを助けるみたいな上下関係ではなくて、お互いが身体機能をシェアし合う。これを「ボディシェアリングシステム」と名づけました。シェアリングエコノミーが盛んな時代に、家とか車といった物質的なものだけではなく、身体をシェアするというコンセプトです。

 AIを搭載し、優れた画像認識とセンシングで空間把握し、視覚障害者をナビゲートするといった解決手段もあるでしょう。でも、人と人をつなげてくれるロボットがつくりたかった。新しい人と出会い、コミュニケーションをとり、しかも弱みと強みを交換し合いながら、だれかの力になれるロボット。

 それが結果的に、障害のあるなしに関係なく、今を生きる僕らみんなの課題となりはじめている「孤独」や「無力感」への回答のひとつになると考えたんです。

 ・・・

 ブラインドサッカー選手の加藤健人さんに、1時間ほど「NIN_NIN」を使ってもらったことがあります。体験が終了し、肩から「NIN_NIN」を降ろすとき、加藤さんがふと言いました。

「なんだか別れるのが寂しいですね」。

 それは、ロボットと接していたからではなく、その中に入っている人を感じられたからだったのかもしれません。