ニッポン西遊記

ニッポン西遊記 古事記編

「神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた」にいたる前に、日本の神社を巡った話が収録されている本です。

 この部分は本筋からは外れるエピソードですが、いろんな社会があるな~と印象に残りました。

 

P177

 2012年の夏に、NHKBSプレミアムのドキュメンタリー番組のロケで、インドネシアのサトゥンガラ諸島の島々を訪れました。数ある島の中でも魔女伝説の残るライジュア島には、今でも縄文時代を思わせる暮らしぶりや祭祀儀礼が残っています。

 その昔、卑弥呼のような巫女的女性・バンニケド&マレガーという2人の女性がいました。気性の激しい女性だったようです。今でも島の人々は「魔女の話をよそ者にすると祟りがある」と畏れていました。この2人の魔女は、たくさんの私生児を産んで育てていたそうです。その影響か、今でも、島の女性は結婚をせず、たくさんの私生児を産み、女性側の家族みんなで育てているというケースが少なくありません。

 ・・・取材を進めていくと、血の繋がりをとても大切にしていて、女と男の姉弟(兄妹)の絆がとても強いことがわかってきました。

 この島では、姉や妹の子どもたちは、男兄弟が面倒を見ることになっています。男兄弟が島を出るときや、葬儀のときなどには、姉妹が織ったイカット(布)を儀式で使います。何よりも女性側の両親の家の財産を、直に血の繋がった子どもに渡したいという思いが強いようで、子どもの父親となる人がよほどの金持ちでないかぎり、結婚には意味がないと思っているようでした。

 女性側の実家にはいつも子どもがたくさんいて、みんなでワイワイ楽しそうに子育てをしています。男性側の実家が可哀想ではないか、と思う人もいるかもしれませんが、この島は基本的に子だくさんなので、男性側の実家もまた、姉や妹の子どもでワイワイしているのです。つまり自由恋愛で、生まれた子どもは家族の宝、財産は血の繋がった人にまわしていこう!ということなので、嫁姑問題もないし、財産でもめることもなく、家族内を仕切っているのは母親なので、争いごとも少ないように見えました。

 生活の中では、祭祀事が重要視され、その中心となっているのも女性です。そして、物理的、政治的にそれを支えているのが男兄弟というわけです。

 日本にも古代から姉が祭祀を司り、弟が政治を司る「ヒメ・ヒコ制」というものがありました。卑弥呼の時代も、古代天皇の時代においても、姉弟、兄妹の組み合わせによるヒメ・ヒコ制が行なわれてきたのです。女性=母性中心で社会が成り立っていた古代は平和だったのかもしれません。

 ちょうど、このインドネシアでの撮影が終わった後すぐ、雑誌の撮影で青森の八戸に縄文遺跡を訪ねに行きました。そうしたら、なんと、そこで発掘された土偶が、インドネシアのライジュア島で見た布に描かれていた帽子とそっくりな冠を被っていたのです。

 びっくりして、インターネットで調べてみました。すると、その土偶は、出産や豊穣に繋がる性愛の女神で、古代メソポタミアの神話に出てくるイシュタルの化身ではないか、ともいわれていました。イシュタルは配偶者を持たずにたくさんの愛人がいたという話もあるそうです。まるでライジュア島の魔女を思わせるようなキャラクターです。メソポタミアの女神の思想が、人々の移動と共に、インドネシアまで伝わったということなのでしょうか?

 ・・・

 ライジュア島は、宇宙のエネルギーがそのまま大地に転写されたような、ぐるぐるとしたエネルギーが渦巻く場所でした。きっと縄文時代の日本も、このようにぐるぐるとしたエネルギーに満ちていて、今の時代と比べると、次元が違うように感じる場所だったのではないだろうかと想像します。だからこそ、そこに住む人々は宇宙の動きとシンクロしていて、ぐるぐる模様の土器を作り、宇宙の法則を模したような祭りが生まれ、宇宙からのメッセージを降ろすシャーマンが存在していたように思うのです。