7本指のピアニスト

7本指のピアニスト

 ミステリーに夢中になるような感覚で一気読みしてしまいました。

 どんな内容かちょっとわかるかなという部分をつないでみます。

 

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 僕のニューヨーク生活は、まさにバラ色からスタートしました。

 続いてカーネギーホールでも演奏し、これからもっと活動の場を広げていこうとしていたとき、僕の指は急に動かなくなりました。・・・

 日常生活では、何の問題もなく指が動くので、初めは病気とは思いませんでした。ピアノを前にしたときだけ、なぜか両手がグーになる。それも、わりばしをはさんだら折れるくらい、強い握力で。

 病院で検査を受けて診断された病名は「ジストニア」。神経症の病気で、治療法がまだ見つかっていない難病とのこと。

「一生プロとしてピアノは弾けない」と断言されました。あまりの衝撃に、僕は我を忘れて「なぜあなたにわかる⁉現時点では弾けないと思う、と言い直してください!」と叫んでいました。

 ・・・

 しかし、ピアノがまったく弾けなくなったことで、僕は一生の宝になるような貴重な経験をします。・・・

 僕の硬直して動かなかった指は、やがて5本、今は7本動くようになりました。そして、10本の指で弾いていた頃には気づかなかったことに気づくようになりました。

 

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「15歳からピアノを始めて音楽大学をピアノ科で受験するなんて無理」

「15歳からピアノを始めてピアニストになるなんて無理」

「突然スカウトされて、ピアノのレッスンのためにニューヨークに住むなんて無理」

ジストニアになってからもプロのピアニストとして活動するなんて無理」

 すべて、常識的に考えれば誰もが「無理」と言いたくなるようなことです。

 でも僕は、不可能とわかっていながら、可能にしてきました。

 ニューヨーク市長公邸で、自分の半生について演説したとき、これらのネガティブをポジティブに変えてきたというところで、観客からの賞賛を得ました。

 

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 ニューヨークの市長公邸は、グレイシー邸と呼ばれ、1799年に建てられました。

 ・・・

 ・・・驚いたことがあります。演説と演奏する1週間ほど前に、僕が本番前に食べたいもの、飲みたいものを聞かれていました。

 僕は、「チョコチップの入ったクッキーとカフェインのないコーヒー」と答えていたのですが、当日、わざわざお菓子作りをするパティシエが雇われており、僕の待機する部屋に焼きたてのクッキーといれたてのコーヒーが用意されました。

 15分ほどすると、それらを全部メイドさんが持って行こうとするので、

「待って!まだ食べてるし、コーヒーもまだ飲んでるんです!」

 と言うと、

「15分もたって冷めてきたから、焼きたてのクッキーといれたてのコーヒーをいれ直します」

 とのこと。ひゃああ~。どんだけすごいねん!それから、5名ほどのメイドさんが入れ替わり立ち替わりやってきて、お世話をしてくださいました。

 ・・・あまりにも現実離れしすぎていて、緊張せずかえって楽しめました。客席を見ると、ペンタゴンホワイトハウス関係者も来ていて、もうハリウッド映画の世界でした。僕がそこにいらっしゃった方々に、

「まるで映画の中にいるようです。とても信じられない気分です!」

 と言うと、観客の中の1人の方が、

「あなたが映画の中にいるのではなくて、私たちがあなたの映画の中にいるのよ。だって、あなたはインポッシブル(不可能)をポッシブル(可能)に変えたんですもの。そしてこのグレイシー邸で演説と演奏をしているのよ」

 と言ってくれました。僕は、ここでも会場総立ちのスタンディングオベーションをいただきました。またまた僕は、トワイライトゾーンにいるような不思議な気持ちになりました。

 20年以上前、ちょっとした下心がキッカケで始めたピアノのレッスン。音楽大学を受験することすら、多くの人に「やめたほうがいいよ、絶対に無理だよ」と言われたあの時期、誰がその後の僕の体験した素晴らしい出来事の数々を想像できたでしょうか?最悪の出来事も最高の出来事に変わる。それぞれの出来事を生かすも殺すも、自分自身の考え方と行動次第なのだ。僕は今までの経験を通してそういうふうに思うようになりました。

 ・・・ジストニアで指が不自由になったことで、今まで見過ごしていたことへの〝気づき〟が増えました。・・・なによりも、演奏時における音色に対してとても敏感になりました。

 不思議なことに、生徒さんの演奏を聴くと、どこをどうすればその人が楽に弾けるのかが、まるでお医者さんが診断するかのように聴こえてくるようになりました。盲目の人が指先の感覚だけで色を当てるような、第六感的な不思議な能力にも似ています。その人がより良く弾けるようになる練習方法が瞬時に思いつくのです。指が健康な時にはなかった能力です。・・・

 今では指がどんな状態でもある程度は楽に弾けるようになる、常識外れの練習方法も確立できましたし、解決不可能だと思われる問題にも必ず出口はあることに気づきました。よく、「大人になってからピアノを始めても、弾けるようになるのでしょうか?」と聞かれることがありますが、僕はその方法も編み出しました。

 ・・・根底にある、「人と違っていてもよい」という確信が自信につながっていると思います。自分の個性はユニークでいいのです。そして、「絶対にあきらめたらアカン!」。