心の癖

今、生きる秘訣―横尾忠則対話集 (知恵の森文庫)

 医師の木村裕昭さんとのお話です。長くなってしまいますが、わかりやすい話で、書きとめておきたいと思います。

 

P68

横尾 木村さんの知人の方から木村先生のお書きになった『健康の原点』という本を送っていただきまして、読んだんですけど、木村先生は外科医だったわけですね。けれども、メスも、薬も捨てて病気を治すっていうことが書いてありましたが、そうされるようになった動機のようなところから、まずお話をお聞きしたいと思うんですけども。

 

木村 そうですね。まあ、動機は単一ではないですからね。

 私自身、小さいときから、なんかそういう精神世界に興味を持ってたんですよ。幸か不幸か、小さいときからオーラ(生体磁気波)が見えたもんでね。だから患者さんの病気というのは、だいたい見ただけでも、よくわかった時期があるんです。

 それと、まあ、外科医でしたから、メスで切ってばかりいましたが、そういうことをやってるうちに、病気というものは、どうも繰り返すもんだ。肉体はまあ物質ですからね。それに対して、物質力で薬を与えたり、悪いところを取れば、もうその部分はなくなりますね。しかし、また別の所に病気が起こってくる。そうなると病気が起こる原因というものが、その部分にあるんじゃなしに、どっか、もっと別の世界、別の次元にあって、それが肉体に投影してくるのが病気であると、こう考えておったんですね。

 ・・・

 理解の仕方によっては、確かに顕在意識と潜在意識というもので人間は生きてる。目に見えたり、五感の反射によって、感じたものに対する反応の仕方が顕在意識であるかもしれませんね。

 しかし、その人がものを判断する、観る、とくに興味を持ってみる、あるいは興味を持たないから見えても見えないのは、これは全部潜在意識のコントロールだからです。だから、特にその人の性格とか、その人固有のものの見方、これはすべて潜在意識がもう表に出て活動している証拠です。

 

横尾 ぼくなんかも、ものの考え方や性格を変えたいって思うわけですけど、非常に難しい作業じゃないかなあと思ってね。変えようって気持ちが働いている以上、なんか変わらないんじゃないかなっていう気がするんですよ。

 

木村 いや、そこがわかる方は変わります。

 

横尾 そうですか。

 

木村 そこがわかるとね。では、なぜそう思われますか。

 

横尾 変わりたいということですか。

 

木村 変わろうという意識が働いている間は変わらないということ、ここに謎があるんです。

 

横尾 うーん、そうですね。なんかぼくはやっぱり、そこに意識が集中していくと、どうしてもこだわりになっていきますね。

 

木村 そのとおりです。潜在意識の中で変わらないもんだということを認めてるからです。たとえば治りたいという病気は絶対治らない。治りたいという気持ちを完全になくしたときに、勝手に治っていくもんなんです。

 

横尾 そういった形で、投げ出してしまうということですね。・・・その投げ出すってのは、やっぱり、なんかの大きな触発か、ある状況に自分をぎりぎりのところまで持っていった状態で、もうどうでもいいっていうことが起こらないかぎり、無理じゃないかなあっていうふうに自分で思うんですけどね。

 

木村 そのとおりですけどね。ぎりぎりまで自分を持っていく、あるいはそういう客観情勢が起こったときにそうなるというのは、顕在意識という自分のわずかな経験とか、あるいはそういうテクニックでは現状を止められないときに、その波長が静まるわけです。そしたら本来の自分の中の意識が活動するのと違いますか。

 だから、過去の習慣とか、古い習慣とか、古いものの考え方、古い観念というものが通用しなくなったときに、初めて本来の力が発揮されるということです。

 ・・・

 私は・・・意識の奥底へ探検したことがありますしね。自分自身の心をずうっと探り当てていくと、その心はどこから発生しているかということがよくわかってくるわけですね。自分の一生の経験から来る場合もありますし、過去生の経験によって動かされている想念もあります。

 そういう原因がはっきりしていると、これは自分のもんではないということに気がつくわけ。後から、客観的情勢とか環境によってやむなくついてきた癖なんだと。そうなると性格というものは心の癖なんです。人間はなかなか癖から離脱できない。だから、癖を変えようというのは、これは大変ですわ。

 新しい癖をつけたら、古い癖は勝手に消えていきよる。きわめて簡単なことやと思います。だからたとえば、あなたが明日から頭を丸刈りにしてごらんなさい。それだけで気分が変わります。・・・

 だから、環境から自分が支配されているということが、そのときにわかるわけです。そのうちに環境に支配されなくなってくると、自分自身の癖をあっちへやったり、こっちにやったり、変えることができるわけ。いろいろやってみると、そのうちに癖の意味がわかってくる。・・・

 そうすると、自分の癖を変えるんじゃなしに、見つめることができるわけです。見つめただけで癖は消えていくんです。だから、癖を変えようと思ってる人は癖を知らないし、見つめてない証拠です。ただ、感じとして嫌な感じがするだけなんです。もっとはっきり、自分の癖がいずこから来て、どのように自分の心に癖が定着したかということを、じいーっと見つめただけで、癖は尻尾を巻いて逃げていくもんです。・・・