深夜のピザ

考えないヒント―アイデアはこうして生まれる (幻冬舎新書)

 すばらしい銭湯の近所にはこんなお店が・・・「偶然は連鎖する」お話です。

 90代で深夜にビールとピザって、それは楽しいなぁ、とちょっと憧れました。

 

P154

 稲荷湯を見つけたのは、まさに「偶然力」のおかげですが、「偶然は連鎖する」ものなので、さらに別の出会いを呼びます。

 稲荷湯にうちのスタッフたちと行こうとしたある日、偶然「アッシャゴ」という店を見つけました。

 稲荷湯にはいつも車で行くんですが、その日は首都高速が渋滞していたので、下道で行くことにしたんです。・・・ところがいつもと勝手が違うものだから、道に迷ってしまった。

 巣鴨のあたりをぐるぐる回っているうちに、一軒の小さな店が目に入りました。時刻は午前一時近く、周辺は電気が消えて真っ暗なのに、「PIZZA アッシャゴ」という看板が煌々とついている。店構えは昔の喫茶店というか、スナックみたいな感じです。

 ここに入るとなにか面白いドラマが起こりそうだという空気を発している店でした。だから、もし帰りにまだ開いていたら行ってみよう、そう思って、ひと風呂浴びて帰りがけに覗いたら、まだ電気がついていたんです。

 ・・・

 僕たちが入ろうとしたら、「もう今日は終わりだよ」と言われた。

 しょうがないから帰ろうとしたら、何を思ったか、オヤジが店の外に出てきました。僕の車のナンバーを見て、

「お兄さん、品川ナンバー?あっちのほうから来たの?」

「ええ、港区から来たんですよ」

「なんだよ、せっかく港区から来たんだったら、いいよ、食ってきなよ」

 しかも僕たちがメニューを見る前に、

「とりあえず三枚食べてもらえれば、うちの実力がわかるから」

 と言って、アンチョビとミックスとコーンの三種類を勝手に作り始めた。喫茶店みたいな店構えからは想像がつきませんが、ちゃんと一から生地をのばして、本格的なんです。

 隣の席には、一人でビールを飲みながら、ピザをつまんでいるおばあちゃんがいる。

「おばあちゃん、元気ですね」

 と話しかけたら、

「私はもう九十過ぎてるのよ」

「へえ、九十過ぎて、ピザ食べに来るなんて、すごいね」

「家族が寝静まってから、そろりそろりと抜け出して、ここでピザを食べるのが私の幸せなの」

 後ろを見たら、カウンターに携帯電話を五台ずらりと並べてサンドウィッチを食べている若いニイちゃんがいる。

 そのニイちゃんとオヤジがカウンター越しにしゃべっているのは、「今度の車はなにを買おうか」という話です。

フェラーリはちょっとイマイチなんだよね」

 とニイちゃんが言えば、

「じゃあマクラーレンとかブガッティがいいんじゃない」

 とオヤジが答える。

 カローラでも買うような調子で、一億円はする車の話をしているんです。一体この店はどういう店なんだろうと目配せしあっているうち、ピザが出てきました。

 食べたら、抜群にうまい。

 結局、ピザのほかにも、スパゲッティまで注文して食べて、店を出たのは三時過ぎぐらいでした。