目標があるから

ドーバーばばぁ (新潮文庫)

 家族を支えながら、家族に協力してもらいながら、がんばる姿に勇気づけられました。

 

P108

 今回は、鳥塚さんがパーキンソン病のお母さんを病院に預けてドーバーに来ています。介護や看護をしなければいけない身でありながら、ドーバーを目指す理由を、大河内さんはこう語ります。

ドーバーに行くっていう目標がないと、介護とか、やっていけないんだよね。『非日常』のドーバーに行けると思うからこそ、普段の生活をがんばれるっていうところがあるんです」

 介護や看護があるのに、ではなく、介護や看護があるからこそ、ドーバーを目指すというのです。

「私の場合、・・・遠泳があったから、逃げずにいられたのかもしれない。・・・

 ・・・いまは、何かに挑戦しないで生きていられるほうが不思議。・・・いつも目標があるから、日々の生活をがんばれる。・・・」

 ・・・

「でもね、若かったときのように速さを求めたり、スピードで競ったりはしないの。おばさんの資金力とおばさんの泳力でできる範囲のことを、一生懸命やる。すごいことを目指すんじゃなくて、できることをやっているの。おばさん流に、自分の好きなように、わがままを言って」

 ・・・

 ・・・

 鳥塚さんがドーバー海峡を泳ぐのは、リーダーの大河内さんと同じで、今回が三回目。

「一回目は四十三歳だったので、勢いで参加しました。二回目のときは、日本泳法をやっている信頼できる仲間たちとの挑戦。そして今回は、まだ先だと思っていたら以外にも早く行くことになったんですが、決心しました。確かに親の介護で大変なときだったけれど、チャンスが到来したら逃さずやりたいんです。

 いちばん大事なのは、もちろん家族。そして健康です。でも、条件が整ったから行くのかというとそういうことではなくて、チャンスが来たら摑むことが大事だと思うんです。やりたいと思ったことが先伸ばしにしないほうがいい。今回のドーバーで悟りました」